<参加報告>バイオマス産業社会ネットワーク拡大研究会

2017年度、固定価格買取制度(FIT制度)のバイオマス発電の設備認定のうち、パーム油やパーム椰子種子殻(PKS)の割合が急増したことが大きな問題となりました。パワーシフト・キャンペーンとしても注目し、2018年4月に下記のリリースを発表しました。
・「持続可能性は大丈夫なの? FIT認定にパーム油・パーム椰子種子殻(PKS)が増え、ルール見直しが議論されました」
この件に関して、2018年11月30日に、バイオマス産業社会ネットワークで拡大研究会が開催されたため、インターンの小出愛菜が参加してきました。
下記、レポートします。

「FITバイオマス発電の現在の課題と改善に向けての提案」
http://www.npobin.net/research/index.html
◆日にち:2018年11月30日
◆主催:特定非営利活動法人バイオマス産業社会ネットワーク
◆内容
「欧州に学ぶバイオマスエネルギーの制度設計」
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所 松原弘直氏
「エネルギー源としてのパーム油の持続可能性と認証制度」
地球・人間フォーラム/プランテーション・ウォッチ
飯沼 佐代子氏
「FITバイオマス発電の現在の課題と改善に向けての提案」
特定非営利活動法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長
泊 みゆき氏

FITが始まり6年が経ちましたが、バイオマス発電に関して数々の問題を抱えている現状でその問題と改善に向けた提案を聞きました。欧州におけるバイオマス発電は、日本に比べて熱利用がかなり普及しているそうです。また、バイオマス発電を進める政策を打ち出したり、石炭火力発電からバイオマス発電に切り替えたりする国もありますが、2020年の発電目標達成は難しい国が多いのが現状だそうです。その原因の一つとしていかにバイオマス燃料を持続可能にするかという点で、バイオマス燃料の一つであるパーム油のプランテーションは熱帯林の減少、気候変動への脅威、生物多様性の損失、住民との土地紛争、労働者・子供の権利侵害などの多くの問題があるそうです。

持続可能性への取り組みの一つとして認証制度があり、そのうちの一つであるRSPO認証(持続可能なパーム油のための円卓会議)のパーム油のみをFITの対象にするという動きがあるそうです。しかし、RSPO認証を取得している搾油工場でメタンガス回収を行っていないところもあり、化石燃料由来発電より多くの温室効果ガスを排出になるといわれているそうです。バイオマス発電は、カーボンニュートラルでなければ石炭火力発電以上のCO2が排出され、温暖化対策効果には問題がある発電方法だそうです。
欧州では日本に比べて再エネ普及が進んでいるため、バイオマスも同様だと思っていましたが、バイオマスだけでみるとそうではなく、難しい現状の国が多いことを知りました。それだけではなくバイオマス発電自体、発電効率が悪いことに加えて、持続可能性や二酸化炭素排出などの問題を抱えていることを学べました。

〇欧州のバイオマスについて
欧州では2020年の再生可能エネルギー20%の目標達成に向けてバイオマスの消費量が増加しており、バイオマス発電を進める政策を打ち出しているそうです。バイオマス発電に関しては、欧州の中でもデンマークとドイツ、熱利用はスウェーデン、フィンランドなど北欧の国が進んでおり、欧州全体でみても熱利用は20%と日本に比べると熱の普及がかなり進んでいるそうです。熱の中での内訳は、約8割を固体バイオマス(木質ペレットなど)が占めており、欧州におけるバイオマスエネルギーは森林資源が担っているといえるそうです。しかし、欧州の2020年の再エネ20%に向けたバイオマス発電の発電目標達成が多くの国で困難になりつつある現状で、その原因の一つとして、バイオマス燃料をいかに持続可能にするかという問題があるそうです。特にデンマークやイギリスなどの国外から輸入を行っている国では調達の際に困難な部分があるそうです。

国別のバイオマス発電の状況を紹介していました。イギリスの国内最大の石炭火力発電所Drax発電所では、全6基あるうち、2基をバイオマス転換しそれに伴いペレット年間750万トン消費する予定だそうです。イギリスでは、2050年までに石炭火力を廃止する目標を掲げており、バイオマス発電を進めていきたいと考えているため熱電併給(CHP)が優遇されるような制度をとっていますが、うまく回っていない状況だそうです。
ドイツは2000年にEEG法(日本でいうFIT制度)を導入し、再エネ比率が2017年には約33%に達し、バイオマス発電は木質よりもバイオガスが大きな割合を占めているそうです。EEG終了後バイオマス発電への優遇制度を取らなかった場合、バイオマスはなくなっていくと予想されたため、EEGの10年延長が認められたそうです。熱利用と、発電したものを水素にしてガス(メタンガス等)に混ぜて発電に使うなどの方法で、バイオマスを残そうとしているそうです。
デンマークでは、2035年までには発電と熱利用は自然エネルギー100%に移行し2050年までに化石燃料を使わない社会を目指しているそうです。バイオマスエネルギーの利用形態は、熱電併給(CHP)、バイオガス、ガス化、バイオ燃料などが中心で、バイオマス燃料の構成は固体バイオマスがバイオマス燃料の約6割を占めているそうです。CHPの最新事例として、デンマーク北部Bronderslev町における、冬には国産木質チップ、夏には太陽熱を原料とした熱利用を行っているスマート地域熱供給があげられていました。潜熱回収も行って、煙突からは15℃という低い温度の水蒸気が出てくる発電所だそうです。

欧州におけるバイオマス発電は、特に熱分野で重要視されており、石炭火力発電からバイオマス発電へ転換をしている国では、バイオマスの持続可能性が重要になっています。

〇パーム油の持続可能性
日本は、パーム油の消費国、グローバル企業、投融資国、エネルギー消費国として関係しています。パーム油=カーボンニュートラルで環境にやさしいと宣伝されることがありますが、本当に持続可能なのかどうかをお話していました。
パーム油の原料であるアブラヤシは1960年代から東南アジアでの栽培が拡大し、生産量は50年間で34倍になり、世界で最も大量に作られ最も安価な油となりました。パーム油のプランテーションは熱帯林の減少、気候変動への脅威、生物多様性の損失、住民との土地紛争、労働者・子供の権利侵害などの多くの問題があるそうです。熱低泥炭地(世界の化石燃料消費量の100年分にも相当する炭素が貯蔵)で開発を行うことで、火災が発生し、地中を伝って燃え上がり完全な消火は困難だそうです。森林火災により土地が焼失し温室効果ガス排出され気候変動への脅威となるそうです。
パーム油の持続可能性への取り組みの一つとして、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、MSPO(マレーシアの国際認証)ISPO(インドネシアの国際認証)の3つの認証があります。認証の内容は、環境アセスメント、泥炭の管理、新規開拓、労働者の権利などがありますが、評価の基準に差や不十分さが残っているのが現状だそうです。世界では、バイオ燃料としてのパーム油の利用の禁止、森林破壊を引き起こす危険のある植物油の燃料利用を段階的に廃止するなどの動きがあるそうです。日本では、現在3つのパーム油発電が稼働しており、FITの対象はRSPOの認証油100%のみと限られているそうです。バイオマス発電にも「持続可能性基準」が求められているそうです。

〇FITバイオマス発電について
バイオマス発電の課題について、幅広くお話していました。FIT制度バイオマス発電の課題として、パーム油発電があり、HIS宮城県角田市で予定している発電所において、間接影響を考慮するとRSPO認証のパーム油でも持続可能性の問題は回避できないそうです。それに加えて、温室効果ガス係数は石炭火力発電以上だと予想されるため、FIT買取対象から外すべきではないかと言われています。
発電所における問題だけではなく、パーム油搾取工場の問題もでました。工場廃液から、メタンガスが排出され、膨大な温室効果ガスが大気中に放出されていることに加え、多くの搾油工場では、コストがかかるためメタンガスの回収を行っていないのが現状だそうです。メタンガスの回収を行っていないパーム油粕だと温室効果ガス排出量が化石燃料由来電力以上になるといわれているそうです。
また、新燃料の問題もありトレーサビリティの確保、保管中の汚水、悪臭、カビなど課題に加え、新燃料によって、新たな環境負荷が生まれてしまう可能性もあるそうです。新燃料はFIT後に自立の見通しがあるものに限定すべきで、未利用資源とされていてもお金が発生していないだけで、地元の住民が使っているという可能性があり社会的弱者に影響があることが考えられるそうです。新燃料、従来のバイオマス燃料を含め、サステナビリティの確認に関わるコストは、木材の認証であるFSC認証のように事業者負担にすべきであると主張していました。
バイオマス発電は、発電効率が悪くカーボンニュートラルでなければ石炭火力発電以上のCO2が排出され、温暖化対策効果には問題がある発電方法だそうです。未利用の木質バイオマス発電(特に発電のみ)は世界的に収束の方向に向かっており、今後は熱利用に活路を見出すべきだと提案していました。

(2018年12月、インターン  小出愛菜)