再エネ中心・公正な電力政策を!逆行するシステム改革に意見

電力システム改革は、原発事故後の電力需給ひっ迫や電気代上昇を背景として2013年に決まった政策です。
大手電力の地域独占・垂直統合を解いていくことが意図され、2015年から2020年にかけて進められました。
・2015年:電力広域的運営推進機関(OCCTO)の設立
・2016年:小売全面自由化  👈これをきっかけにパワーシフトがスタート
・~2020年:送配電部門の法的分離(子会社化)

3段階目の電気事業法改正で、「5年以内に」と規定されていた電力システム改革状況の検証が2024年に行われ、2025年2月「電力システム改革の検証結果と今後の方向性」がまとめられ、パブリックコメントにかかりました。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620225004&Mode=0
「概要」資料はこちら
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/085.html

これに対し、パワーシフトからも以下の意見を提出しました。
現在の電力システムは、原子力や火力を中心とした古い考え方のままで、再エネの妨げとなっています。
太陽光、風力など変動する再エネをこれからもっともっと導入していくために、大きな方向転換が必要です。

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「電力システム改革の検証結果と今後の方向性」に対する意見

2025年3月7日
パワーシフト・キャンペーン運営委員会

①原子力や脱炭素火力等への新規の制度措置は、再エネを中心とした電力システムへの転換を妨げ、長期にわたる国民負担となるため行うべきではない。(15-16ページ)

第5次エネルギー基本計画(2018年)で「再エネ主力電源化」がうたわれ、COP28でも日本政府を含む世界110カ国以上が2030年までに再エネの設備容量を世界で3倍に合意したが、その大部分は太陽光発電と風力発電という自然変動型再エネ電源(VRE)である。
この自然変動型再エネ電源(VRE)を軸に抜本的な再エネシフトをすることこそ、気候危機への対応、エネルギー安全保障、エネルギーコストの安定化も両立しうる道筋である。
今後、太陽光発電と風力発電という自然変動型再エネ電源(VRE)を飛躍的に拡大するためには、送電システムや電力市場など電力システム全体を供給と需要の双方において柔軟性を高める方向で整備してゆく必要がある。柔軟性の低い大規模電源はそれと逆行するため、廃止していくことが必要である。
ところが、今回のシステム改革検証では、逆方向の議論が行われている。
「安定供給確保を大前提とした電源の脱炭素化の推進」として、意図されているのは原子力や脱炭素技術を付加した火力発電への改修や新規建設である。

今回、「電気事業の予見可能性が低下し、電源投資に躊躇する動きがみられる」ため、「新たな投資を促進するために、事業期間中の市場環境の変化等に伴う制度措置や市場環境を整備する」(16ページ)としている。2024年度のエネルギー政策見直しの議論のなかで、電力事業者などから、原子力や火力発電の脱炭素技術付加に大きな費用がかかり、民間の負担のみでは、そのリスクを追いきれないという声が強く出された。容量市場や長期脱炭素電源オークションなど、現在ある支援策でも十分でないという。このことがすでに、原子力や脱炭素火力を将来の脱炭素電源の選択肢とすることのリスクを示している。
原子力小委員会では、原子力の建設時からすでにその費用を国民に転嫁するRABモデルが参考として示された。これに限らず新規の支援策は、高額で不確実な技術に対して長期にわたって国民負担を強いるものとなるため、導入すべきではない。

②大手電力と新電力の格差を拡大し、電力システム改革の目的に反する容量市場、長期脱炭素電源オークションは廃止すべき。(全体)

容量市場は、実質的に大規模電源を所有しない小売電気事業者および消費者の負担で、古い火力発電や原子力発電を支える制度となっている。再生可能エネルギーの大量導入を妨げるものであり、制度自体白紙撤回すべきである。
2020年度の初回約定価格は上限価格にはりつき、2021年度には下がったものの、2024年度に再び上限価格付近となっている。
2024年度から小売電気事業者による容量拠出金支払いが開始し、多くの小売電気事業者は平均で2円/kWh前後の負担増加を自社で抱えたり消費者に転嫁したりしている。
一方、大規模電源を所有する大手電力(旧一般電気事業者)等にとっては、容量確保契約金収入が入り、その分自社小売との相対契約を値引きしているため、実質的に負担はほぼない。
新電力と大手電力の格差を拡大し、新電力の事業環境を圧倒的に悪化させる容量市場は、需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大するという電力システム改革の目的に反する。

また、長期脱炭素電源オークションも、容量市場から派生する類似制度である。対象を「脱炭素電源」としているが、実際には新設のLNG火力、石炭火力のアンモニア混焼への改修、LNG火力の水素混焼への改修、火力発電のCCS付加への改修など、実質的に相当程度二酸化炭素を排出する火力発電の新設・改修が多く支援対象となっている。容量市場と同様に、新電力および消費者の負担を増大させ、脱炭素化に逆行しているものである。

容量市場、長期脱炭素電源オークションともに廃止し、すでに成熟した技術である省エネ・再エネへの支援制度に転換すべきである。

*パワーシフト・キャンペーン「容量市場拠出金の支払いの現状に関する調査2024報告書」2024年4月4日
https://power-shift.org/capacitymarket_report2024/

③再エネ最優先で柔軟性を確保する電力システムへの大きな変革を行うべき(全体)

デマンドレスポンスや蓄電、電力融通などに加え、再エネ熱利用や交通なども含めたエネルギーの使い方の見直しも必要である。日本でも再エネ社会を実現するための抜本的な電力システム改革こそ、今行うべきである。
日本ではまだまだ、再エネの割合が2割を超えたところで、第7次エネルギー基本計画による2040年度の目標でも4-5割にとどまっている。
一方、原子力発電から脱却したドイツでは、2024年、電力の約6割が再エネとなり、遅くとも2035年までには石炭火力からの脱却、再エネ100%も目標に掲げられている。
また、オーストラリアの南オーストラリアでも、再エネを最優先として、蓄電池なども含め柔軟性を確保するしくみにより、すでに再エネ電力70%以上を達成している。

日本においても、大規模電源による「供給力」「安定的な電力供給」の方向を抜本的に転換し、再生可能エネルギーを中心に据えなければならない。「電力システムの脱炭素化」ではなく、「再エネ化」とすべき。

*パワーシフト・キャンペーン「電力自由化と電力システム改革~再エネ新電力の価値とこれから」2024年10月30日(オンラインセミナー)
https://power-shift.org/241030_symposium/

④送配電部門の所有権分離を行い公平・中立な運営を行うべき(21ページ)

送配電部門の分離のあり方について、2013年2月の「電力システム改革専門委員会報告書」では、「中立性を実現する最もわかりやすい形態として所有権分離があり得るが、これについては改革の効果を見極め、それが不十分な場合の将来的検討課題とする」とされ、より容易に実施できる法的分離が選択された。
2022年末、送配電子会社と親会社との情報遮断が不十分であり、新電力の顧客情報が営業活動に使われるなどの不正さえ起こっていたことが明らかになった。法的分離では、中立性・公平性の確保に不十分であり、その状態が長く続いていたのである。
システム改革検証の議論のなかでも所有権分離の必要性について議論が行われたものの、「少なくとも現時点で必要ない」とまとめられた。しかし、内部統制の強化や外部監視のみでは、十分な情報遮断を担保することはできない。今こそ、中立性・公平性の確保にむけて所有権分離が必要である。

⑤大手電力と新電力の非対称な関係を是正すべき。大手電力の発電部門と販売部門は分離すべき。(22-23ページ)

電力小売全面自由化からまもなく9年を迎える。
新電力のシェアは、約5%から2021年度には20%以上まで伸びたものの、その後の市場価格高騰などを受け低下し、2024年度は17~20%程度となっている。
大手電力による取り戻し営業や低価格での入札参加も見られるなど、大手電力が圧倒的な競争力を持っている状況には大きな変化がない。
大手電力は、自由化以前に建設された大規模発電設備の大半を所有している。減価償却の進んだそれらの「安価」な電気を自社で優先的に使用していることが、その背景にある。
2024年1月発表の公正取引委員会「電力分野における実態調査報告書(卸売分野について)」でも、大手電力発電会社と大手電力小売会社に対して長期契約で卸売りを行い、大手小売がその余剰分を新電力に卸すという関係にあったことが指摘されている。
さらに、東京電力・中部電力以外では発電部門と小売部門が一体のままであり、自社内部での補助や不透明な形での取引が行われている。大手電力小売部門が、調達価格を下回る小売価格を設定していた事例が確認され、独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘されている。

発電部門と小売部門の分離を進めるとともに、大手発電部門の電力は公平に(内外無差別に)新電力も含めた各社に供給すべきである。

※公正取引委員会「電力分野における実態調査報告書(卸売分野について)」2024年1月17日
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jan/240117.html

⑥市場運営・監視機能の抜本改革と強化(25ページ)

2021〜2022年度の電力市場価格高騰では、卸売市場からの購入の多い新電力だけでなくFIT電気の調達割合の高い新電力も大きな打撃を受けた。
市場価格高騰が原因で電力販売を停止したり事業から撤退した事業者も多数あったにも関わらず、制度の見直しは十分になされておらず、打撃への補正や補填もない。
またその背景には、大手電力が自社内部への供給を優先し、市場への電力供給が絞られたり、大手電力による高値での買い入札があったことが公正取引委員会の調査でも指摘されている(*2)。
このような市場の不備に対して、日本電力卸取引所(JEPX)および電力・ガス取引監視委員会(監視委)は公正な監視と適切な対応を取ることができていない。
さらに2024年11月、JERAによる余剰電力の一部未供出の状態が4年半にわたって続いていたことも明らかとなった。この件でも、不正であることが明らかとなりつつも、罰則も返金もなく、業務改善勧告にとどまっている。監視委の監視・監督が機能していない状況である。罰則の導入など今後電気事業法の見直しも行う必要がある。そのために、JEPXや監視委等の抜本的な改革と体制の強化が必要である。

*公正取引委員会「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」2023年3月30日https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html
*パワーシフト・キャンペーン「JERAの市場価格操作問題 莫大な不正利益はどうなるか?!」2024年12月26日
https://power-shift.org/241226_event/