「東京都内「大学」の脱炭素化に関する調査報告書2020」公開

「東京都内「大学」の脱炭素化に関する調査報告書2020」公開

2021年1月29日
脱炭素投資研究会、パワーシフト・キャンペーン運営委員会

近年世界中で気候関連災害が増加・極大化する傾向が見られる。日本でもその影響は顕著であり、国を超えた様々なステークホルダーによる脱炭素化が早急に求められる。加えて、2019年末ゼロエミッション東京戦略が示され、都内の大学による気候危機への対処(脱炭素化)は急務となっている。大学は、大規模なCO2排出事業者であることや教育機関としての重要な拠点であることから、脱炭素化のため重要な役割を担っている。また経費削減や持続可能な経営の観点でも脱炭素化は有効であると考え、大学による温暖化対策実施はインセンティブ創出にも繋がるのではないかと考える。そこで東京都内の大学の脱炭素化の調査を行い、優れた取り組みを考察・発信し、また脱炭素化を促進するために本調査を企画した。

・報告書のダウンロードはこちら
・報告会(予定):2021年3月下旬にオンラインで開催(日時は後日記載)

<調査概要>
調査目的:大学での脱炭素化の状況等について質問調査を行いその状況を可視化することで、大学での脱炭素化を促進する。また、大学への提言および行政への提言を行う。

実施主体:
主催:脱炭素投資研究会、パワーシフト・キャンペーン運営委員会
協力:国際環境NGO FoE Japan、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

調査対象と回答数・回答率:東京都内の国公立私立大学139校のうち回答49校(回答率35%)

調査内容:温暖化対策に関するビジョンの有無、ガバナンス、低炭素電力調達の状況、脱炭素投資状況および将来の対策内容など(設問票は5.2参照)

調査方法:郵送による調査(回答は郵送、メール添付、FAX可)*必要に応じて電話・訪問ヒアリングを実施

調査期間:2020年6月~9月

<調査結果概要>
・約半数が温暖化対策に関するビジョンを持っていると回答したが、その具体的目標のほとんどが都条例、省エネ法等の規制についての記載にとどまっている。
・約半数が温暖化対策に関して部門間横断で協議を行う場・会議等がないと回答している。
・温暖化対策を進める上での課題は、予算や人員の不足が主な理由として挙げられている。
・環境報告書を作成しているのは半数以下であり、規制値以上の目標を記載している大学はほとんどない。
・電力調達においては、東京電力系列と契約している大学が約69%と多くを占めている。電力調達においてCO2排出量削減を考慮している大学は約10%にとどまる。
・先進的事例として、温暖化対策を目的としたESG投資を実施する大学や、2030年度の排出削減目標といった中期目標を掲げる大学が見られた。
・環境会計を導入している大学は約4%と極めて少ない。

<考察>
・大学単体で温暖化対策を進めるには人員不足等の障壁があるため、大学間のつながりを創出すれば、効率良く温暖化対策にかかる情報収集ができると考えられる。
・中期目標としての2030年度の温暖化排出削減目標を大学が掲げることで、実現可能で段階的な温暖化対策の必要性を社会に訴えかけることにつながる。
・回答大学の多くが、省エネ法や東京都環境確保条例等の規制を遵守していることから、法・条例による温室効果ガス排出量規制や削減目標をさらに強化することで、大学の温暖化対策の底上げにつながると考えられる。
・大学が温暖化対策を目的としたESG投資を実施することで、大学の新たな資産運用の形として、温暖化対策と教育・研究費の充実を両立し得ることを実証する機会となる。
・PRI(国連責任投資原則)に署名することで、教育・研究機関でありまた運用機関である大学の責任投資責任を対外的に示し、大学をはじめとした様々なステークホルダーによる責任投資の波及効果が見込める。

<提言>
(1)大学経営のガバナンスに「脱炭素化」を組み込み、温室効果ガス排出主体としての責任を果たすべきである
・大学経営の幹として気候変動に取り組む上で委員会を始めとした議論の場の設置は基本であり、未だ設置していない大学は早急に設置を検討するべきである。
・気候変動に関する委員会を運営する際に、大学経営の意思決定に深く関わる理事や理事長レベルの役職につくものが委員として参加すべきである。
・大学の脱炭素化を進める上で、温暖化対策を主目的とした予算の確保や温暖化対策の専門家等の人員の確保が急務である。
・UNFCCCが実施している脱炭素化を促すキャンペーンであるRace to Zeroや日本主導のイニシアティブであるJapan Climate Initiative等への参加を始めとして、大学としての取り組みやビジョンを示すべき。
・社会に規範を示すべき教育・研究機関として、事業報告書や環境報告書での温室効果ガス削減目標、省エネ目標、再エネ導入目標等、またそれらの達成状況等を情報公開する必要がある。
・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に署名することで、大学による気候変動関連の情報開示の重要性を対外的に示し、また学内での温暖化対策の機運を高める必要がある。

(2)日本政府及び東京都は、省エネ法や東京都環境確保条例を始めとした環境規制を、IPCCが示す科学に基づいた目標と整合させる必要がある。
・世界の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるためにはIPCCが示す通り2030年までに45~55%、2050年までに排出実質ゼロを実現する必要があり、省エネ法や東京都環境確保条例もそれに沿った目標に引き上げる必要がある。

(3) 大学の電力調達においては、コストで決めず脱炭素を重視した調達基準作りをするべきである。
・電力調達は短期的なコストで選ぶのではなく、再生可能エネルギーを重視したり地域の電力を重視する電力会社から調達する調達基準作りを行い、それに合致する電力会社と契約すべきである。
(4)大学は資産運用の目的に気候変動を始めとしたESGの観点を組み入れ、研究・教育費の増資と温暖化対策を両立する姿勢を示すべきである
・PRI(国連責任投資原則)に署名し、教育・研究機関でありまた資産の運用機関である大学の責任投資にかかる責任を対外的に示すことで、大学をはじめとした様々なステークホルダーによる責任投資を波及させていくべきである。

連絡先:パワーシフト・キャンペーン運営委員会 事務局
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9 FoE Japan内
mail:info@power-shift.org
電話:090-6970-9700(脱炭素投資研究会 塚本携帯)