(参加報告)ドイツのシュタットベルケから自治体新電力の可能性を探る

 研究会の様子

  • ドイツのシュタットベルケから自治体新電力の可能性を探る

去る6月11日、港区神明いきいきプラザにてNPO法人農都会議主催の「シュタットベルケ研究会」が行われました。テーマは「地域エネルギー・インフラサービス会社の課題と実現方法を考える」。「自治体が出資し、地域の再生可能エネルギーなどを電源として電気販売を行う『自治体新電力』の設立が全国で相次いでいます。手本となるドイツでは、地域インフラ会社ともいえる『シュタットベルケ』が各地で存在感を増しています」というもの。

京都大学経済学研究科特任教授内藤克彦氏の「ドイツのシュタットベルケとわが国の自治体新電力の可能性」について講演した内容を再構築して報告します。

  • 地域インフラ会社「シュタットベルケ」

「シュタットベルケ」は19世紀中旬から自治体100%所有の水道・ガス事業から始まり、現在では電力・ガス・熱・水道・下水処理・ごみ収集・交通・通信など総合サービスを一括して提供しています。その結果、相乗効果を生み出し、リスクを分散してきました。2017年現在、公社協会の会員数は1,458社(シュタットベルケは約1000社)、売上1,151億ユーロ(約14兆円)、従業員数262,239人。ドイツでの全電力供給量の11%、全発電網の45%を所有し、全電力販売量の60%占めています。他の事業でも、ガス65%、熱販売69%、水道87%のシェアです。自治体公社は、100%自治体出資か、複数自治体共同出資、または自治体民間共同出資です。

公有化のメリットとしては、安定した財源を確保し、地域での雇用を創出し、外部の電力会社に流出していた資金が地元で回ることです。また、大手電力会社より低い利益率で、市民に安い電力を供給しています。その送配電部門の安定収入や黒字が、赤字や非採算部門(公共バス、LRT《次世代型路面電車》)の支援、公共サービスの持続的な提供に使われています。

特に配電網の再公有化の動きで、新たに配電網を獲得した例は170件以上。ドイツでは自治体公社が配電部門を運営していましたが、1990年代の電力構造改革の流れの中で、大手電力に売却したところがありました。大規模な自治体では、配電部門を手放さないところが多かったです。買い戻しを行う自治体は、主として中・小規模(5万人以下)の自治体です。シュタットベルケの多くは、配電網と中心となる発電施設としてコージェネレーション施設を持ち、小規模地域電力会社として運営できます。配電網営業権が20年で切替えになるタイミングで買い戻しを行ってきました。

しかし、ドイツでも、電気の小売の競争が激しくなり、本当は黒字より赤字が多くなってきているところもあり、苦しくなっていいます。公共交通への資金提供も難しくなっている現実があります。

 

  • デンマーク、2050年まで工業・自動車を含むすべてを再エネ化

デンマークでは、2020年に電力消費の半分は風力で賄い、2030年には石炭火力・オイルバーナーを段階的に廃止し、2035年には発電・熱供給の再エネ化を達成、最終的に2050年には工業、自動車を含む全てのエネルギー供給の再エネ化する目標を掲げています。このENERGY AGREEMENT(2012年3月)の合意は、与野党、国会議員9割以上から支持されています。

デンマ-クの電気代は税を除くと日本より安いのです。熱供給と電力グリッドの接続による蓄熱活用、また、電力、ガスグリッドの接続によるガス貯蔵の活用や交通への利用が進んでいます。例えば、ロラン島のバイオ・コージェネレーションプラントでは、蓄熱整備を設けています。大規模の蓄熱設備は週末の電力価格が安い時にプラントを停止することができます。一日の中の熱需要の変動を吸収し、売電価格の変動によって蓄熱設備からの蓄熱・放熱を調整 。再生可能エネルギー出力変動を吸収しています。

安価で工事費も安い熱供給管が主流となっております。行き80℃帰り40℃で熱ロスが少なく、低圧で熱供給管のコストが安く、工事が簡単で工事費が安いのです。デンマ-クの例では20kmの遠方まで熱供給しています。

デンマークでは、電力需要の約5割がコージェネレーションの発電により賄われています。その分だけ発電に伴う排熱が地域熱供給として活用されています。その一方、日本では産業用も含むコージェネレーションの電力需要に占めるシェアは3%しかありません。欧州でも、総熱需要の約半分はコージェネレーションにより賄われています。  いかに安く供給するかです。その中で、熱は稼ぎ頭になっています。 (日本でもお風呂に入るので、熱供給が主体となり、重要です)。

 

  • 日本の地域電力は、シュタットベルケになり得るか?

持続・定着するためには、まず「場所」と「需要」の確保の確認が必要です。一時の流行や「実証のための実証事業」ではいけません。自治体は低コストの用地提供できます。需要はまずは公共需要、そして大口民間、次に小口民間に拡大します。でも、日本の地域電力は需要を確保できるのかがかぎになっています。

ドイツのシュタットベルケは地域の需要の過半のシェアを確保し、デンマ-クの地域エネルギーセンタ-でもほぼ地域需要全体を確保しています。日本で言うと水道事業のようなものです。日本でも水道は安定経営しており、水道事業を組み込んだ経営の可能性はあるでしょう。

経済性の高い事業が必要です。電力事業は代金後払いですから、資金力も大事です。また、地元の資本を使い、収益が外に流れださないようにしなければなりません。地産電力を用いるのなら、需要に見合った地産電源を確保しなければなりません。  欧米では、DSO(配電管理者)とTSO(送電管理者)が分離しているので、地域として独立的に需給調整し易いですが、日本では現時点ではDSO経営はできません。

製造・建設側のノウハウに頼ると、とかくスペック過剰の高価な物をなりがちで、ペイしません。製造・建設側は、「売るまでが商売」。「中小事業主体経験者」の知恵を借りて、最小限のコストで地域資源を活かす工夫を考えることが重要で、そうでないと失敗します。

<聴講の所感>

  • 自治体新電力は地方分権の要、採算性ではない

自治体新電力を進めるために、ドイツのシュタットベルケから学ぼうという趣旨でこの研究会の報告書をまとめました。大事なのは「公共サービスの持続的な提供」をして、地域の社会問題の解決をすることです。

しかし、日本では、とにかく事業の独立採算性が重要視されがちです。ここで挙げられた水道事業さえ水道法改正で民営化できるようになりましたが、欧州では逆に水道の再公営化が進んでいます。公共交通に至っては、日本の一般国民も運賃収入が費用を下回る場合には無駄な事業と考える傾向が強いです。交通事業は採算主義をとるというのは、先進国ではまれな独自な考え方です。電力も採算性だけではなく、地域にお金を回す視点から見直す必要があるのではないでしょうか。

もう一つは自治体の専門性です。もともと日本の自治は1886年ドイツ人アルベル・モッセが来日、地方制度制定に関与したことが始まりです。「中央政権では、政治は他人事。『自治』をやらせてみることで、責任感は生まれる」いうものでした。今日、地方分権が叫ばれています。「国の仕事を自身でやる(やらせれる)」から「自分たちの団体の仕事を自分たちでやる」への発想転換です。ドイツでは「専門職として強い裁量権を持つ上級市長」が20~30年かけて決めているそうです。富山でLRTを成功された森雅志市長はその成功の秘訣を次のように語っています。「庁内でバカを三人見つけることです。専門家より専門になれる人間が必要。計画、実行、完成、運行までを一環として続けるには、三人が必要です。一人ではつぶれてしまう。二人ではケンカになる。三人であれば、お互いに認め合うことが多い」。日本にもそんな専門家を見出すことが、自治体新電力でも必要ではないでしょうか。

「自然エネルギーはドイツに学べというけれど、戦前には日本でも投資型発電所は各地にあった」は西野寿章・高崎経済大学地域科学研究所所長の言葉です。「自治体新電力」はエネルギーを地元に取り戻し、新しい地方分権を創る要です。

(2019年7月 高橋喜宣)