2016年4月から始まった「電力小売全面自由化」から3年が経ちました。
新電力の販売電力量でみた新電力のシェアは約15%に、家庭など低圧部門でのスイッチング(大手電力から新電力への切り替え)も約14%となりました(*1)。
環境にやさしい電気を使いたい、原発の電気は使いたくないという思いは多くの市民が持っていると思います。でも、忙しい毎日のなかで、電力会社はまだ切り替えていなかった、という方も多いかもしれません。
今からでも遅くありません。むしろ今、「再エネや地域」を重視する電力会社の輪は各地にひろがり、選択肢は大きく増えています。
アクションに必要なのは情報ときっかけです。ぜひこの機に、検討してみていただけたら幸いです。
(*1 2018年12月時点、電力ガス取引監視等委員会2019年3月15日リリースより)
パワーシフト・キャンペーン運営委員会一同
パワーシフトってなに?という方、ぜひ続きを読んでみてください!
Q1.パワーシフト・キャンペーンとはどのようなキャンペーンでしょうか? Q2.なぜ大手電力会社からの切り替えを呼びかけているのでしょうか?
Q3.再生可能エネルギーの電気は高いのでは?
Q4.おうちの電気を切り替えるのに、電気工事など必要なのでしょうか?
Q5.大きな電力会社でないと、倒産して電気が止まったりすることはありませんか?
Q6.携帯電話の機種変更に行ったら、携帯の料金とセットにすると電気代が得になると言われました。こうした新電力もパワーシフト・キャンペーンではすすめていますか?
Q7:キャンペーンは、順調に進んでいますか?
Q8:なぜ大手電力は、そのような安値攻勢ができるのでしょうか?
Q9:そうは言っても、これまでの契約を続けている人が多いと思いますが、どうでしょうか?
Q10:電力会社を切り替えたいと思った場合、何を見て、どう選べばよいでしょうか?
Q11:海外と比べて、再生可能エネルギーに関する日本の状況はどうでしょうか?
Q12:このキャンペーンで伝えたいことはなんでしょうか?
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Q1.パワーシフト・キャンペーンとはどのようなキャンペーンでしょうか?
―パワーシフト・キャンペーンは、2015年に環境団体や消費者団体などのネットワークでスタートしました。運営団体・賛同団体はこちら
電力自由化を機に、わたしたち消費者が再生可能エネルギーを重視する電力を選択することで意思表示を行い、社会全体のエネルギーシフトを促していくことを目指しています。 いま、自然エネルギー供給を目指す電力会社は各地に次々と現れています。
「市民や地域が主体となってつくられた自然エネルギーの電力を選びたい」という市民・消費者の声を、カタチに、行動にしていきたいと考えています。
具体的に電力会社を紹介したり、電力会社を切り替えた企業・事業所を紹介したりしています。
Q2.なぜ大手電力会社からの切り替えを呼びかけているのでしょうか?
―大手電力会社の独占と、原発や化石燃料その他環境負荷の高い発電が市場原理や政策によって進められてしまっている状況を変えることが必要です。
また、電気は誰でもが使うものです。みなさんは毎月の電気代を、どんな電力会社に支払いたいでしょうか?
誰でもができて、また具体的にお金の流れを変えることができるアクションの一つとして、呼びかけています。
Q3.再生可能エネルギーの電気は高いのでは?
―「再生可能エネルギーは高い」と言われことがありますが、本当でしょうか?太陽光や風力、水力を活用する電気であれば、燃料費はゼロです。また化石燃料や原子力は、大気汚染物質やCO2、放射能や放射性廃棄物を出し、それらによる環境への影響はコストに含まれていません。長期的にみたときに、どちらが「高い」のかは明らかです。
ただ、再生可能エネルギーは最初に導入するときの設備費は現状ではまだ少しかかるかもしれません。最初は応援が必要ですが、これも普及につれて下がっていきます。
一方、再エネを重視する電力会社の電気代がこれまでと比べて高いかといえば、実はそんなことはありません。再エネの固定価格買取制度によってみんなで支えていることも理由の一つです。現状では、大手電力と同じ程度の価格に設定しているところが多いです。電気を使う量によっても多少変わってきます。
また、再エネをより積極的に応援できるように、あえて少しだけ高い料金のプランをつくっている電力会社もあります。
Q4.おうちの電気を切り替えるのに、電気工事など必要なのでしょうか?
―必要ありません。物理的に電気を届ける、電線や電力メーターを管理する「送配電」の仕事は、引き続き地域の電力会社が担っていて今までと変わりません。 自由化された「小売」は、お客さんとの事務的な窓口です。広告宣伝や契約など事務的な手続き、お金のやり取りを行っています。電気の調達や管理はコンピューター上で行うものです。だから、他業種の企業や自治体、小さな会社も含めてたくさん参入しているのです。
Q5.大きな電力会社でないと、倒産して電気が止まったりすることはありませんか?
―安心してください。先ほどのべたように、物理的な電気の流れはこれまでと変わらず、万が一小売の電力会社が倒産しても、送配電会社(東京であれば東京電力パワーグリッド)が電力供給を続けますし、また別の電力会社を選べばいいのです。選んだ電力会社によって、電気が止まることはありません。
Q6.携帯電話の機種変更に行ったら、携帯の料金とセットにすると電気代が得になると言われました。こうした新電力もパワーシフト・キャンペーンではすすめていますか?
―すすめていません。携帯電話とセット、ガスやインターネットとセット、などいろいろな広告宣伝が目に耳に入ってくるかと思います。でも、それらの電気は、結局は大手電力会社の電気だったり、化石燃料の電気だったりする場合がほとんどです。
「安さ」の競争になれば、電力会社は電気をより安く調達しようとします。結果として大規模な化石燃料発電や、再稼働した原発の電気といったところにつながってしまいます。もちろんそれらは「一見安い」だけなのですが・・
パワーシフト・キャンペーンでは、安さだけで選ぶのではなく、電力会社がどのようなビジョンを持っているのかで選ぶことを勧めています。
Q7:キャンペーンは、順調に進んでいますか?
―全国各地のみなさんに、チラシや情報を活用いただいたり、学習会やイベントを開催いただいたりしていただいて、つながりが大きく広がっています。また市民だけでなく、企業や事業所の再エネ選択も少しずつ進んできており、食品会社や化粧品会社、薬局チェーン、民放ラジオ局、私立学校や宗教施設、カフェなどなどが、再エネ電力会社に切り替えています。
すてきなエピソードがたくさんあって、その話を聞いて次に切り替える人が出てくるなど、輪が広がっています。
再エネ新電力だけではありませんが、新電力全体のシェアは、全面自由化前の約5%から現在15%近くまで上がってきています。
しかしこれは同時に、大手電力への脅威でもあります。そのため、大手電力も必死に巻き返しをしてきています。具体的には、大口の企業などが新電力に切り替えようとすると、とても太刀打ちできない大幅な値引きを提案して、その切り替えを阻止してしまう、ということがたくさん起こっています。パワーシフトにつながる新電力からも、切り替えの話が進んでいたのに、取り戻された、と多くの苦しい声が聞こえてきます。詳しくはこちら
Q8:なぜ大手電力は、そのような安値攻勢ができるのでしょうか?
―大手電力は、減価償却の終わりつつある「見かけ上安い」電源を持っています。つまり、大規模水力発電や原発です。しかしそれらは、何十年も前に消費者全体が電気代や税金で少しずつ負担して、建設されたものです。自由化の時代になった今、それらの電源を大手電力会社が「自社のもの」として値引きの原資にしているというのは、「公平な競争」と言えるのでしょうか。歪みがある状況です。
Q9:そうは言っても、これまでの契約を続けている人が多いと思いますが、どうでしょうか?
―「なんとなく、よくわからない」ことからくる「消費者の心の壁」も大きいと思います。「工事が必要なのではないか」「停電しないか」といった不安もあったかもしれません。でもこれは解決されたでしょうか。
マンションやアパ―トに住んでいるから変えられないのでは、と言われることもありますが、実はこれは誤解です。それぞれの部屋ごとに、請求書が来ている場合は、切り替えることができます。一部の大型マンションで、一括の契約となっている場合もありますが、それ以外の場合可能です。
こういった不安や疑問は、情報共有をすることで解消することができます。パワーシフト・キャンペーンからも情報発信していきたいですし、みなさんの口コミも重要です!
「忙しくて」「関心はあるけれど何となくそのままに」という人も多いと思います。そんな人に必要なのは「きっかけ」です。この記事をお読みくださったあなたはぜひ今、一緒にアクションしてみましょう!
勉強会やイベントなどで「きっかけ」をつくる活動も重要ですね。
Q10:電力会社を切り替えたいと思った場合、何を見て、どう選べばよいでしょうか?
―再生可能エネルギーを選びたいけど、どんな電力会社があるのかわからない、というのもよく聞く声です。パワーシフト・キャンペーンのウェブサイトで紹介していますので、ぜひご覧ください。各社のビジョンや特徴を紹介しているので、お住まいの地域やライフスタイル、重視したい点などから、選んでみてください。より詳しく知りたいかたは、私たち事務局や、お近くの環境団体などに聞いてみるのもよいと思います。
Q11:海外と比べて、再生可能エネルギーに関する日本の状況はどうでしょうか?
―日本の再生可能エネルギーの割合は、2010年、原発事故の前には約10%(大規模水力含む)でしたが、2012年に再エネの固定価格買取制度が導入されたこともあり、現在は約16%となっています。
ですがまだまだ課題も多く、世界の中では再エネの普及に遅れを取っているのが現状です。
例えばドイツは、再エネの割合がすでに40%近くなってきており、2022年には脱原発、2038年には脱石炭火力も決めています。そういうことがもう実際に可能なこととして見えてきています。
一方で日本では、現在のエネルギー政策ではいまだに原発や石炭などの火力発電を重視しています。再エネを本当に進める制度には残念ながらなっていません。
原発や化石燃料に頼らず、大幅な省エネルギーと持続可能な再エネを進めるということをまずは決めたうえで、どうやってそれを実現していくのか、地域レベルで考えていくことが必要です。
私たちは、エネルギー政策について意見を言うとともに、電力の選択を通じて、実際にお金の流れで意思表示することができます。
Q12:このキャンペーンで伝えたいことはなんでしょうか?
―私たち一人ひとりが、行動を起こすことができ、少しずつであっても、お金の流れを変えることができるということです。英語の「POWER」には電力という意味も権力という意味もあります。両方のあり方を考えていきましょう。
どこか遠くで、環境に負荷をかけて作られるものだったエネルギーを、地域に、市民により身近な持続可能なものに、取り戻していく。そのプロセスの中で、地域のなかでさまざまなつながりが生まれたり、企業や事業所の面白い取り組みが見えたり、エネルギー問題や原発事故に対する色々な思いが垣間見えたりすることがあります。
地域づくり、つながりづくり、課題解決、顔の見える関係、そういったさまざまな活動がつながって初めて「エネルギーを市民の手に」は実現できると思います。電力の選択はその一つ、小さな一歩です。
*こちらの記事は、4月3日放送の「NHKジャーナル特集」での放送内容をもとに作成しました。よろしければこちらも合わせてご覧ください。(4月10日まで、オンラインで聴けます。)
https://www4.nhk.or.jp/nhkjournal/