「自治体の電力調達の状況に関する調査」報告書(2019)

2019年10月30日
パワーシフト・キャンペーン運営委員会
一橋大学自然資源経済論プロジェクト、朝日新聞社、環境エネルギー政策研究所

電力の需要家として、自治体は重要な役割を担っています。国や独立行政法人、地方公共団体(自治体)の調達に関しては、環境配慮契約法により環境性能を総合的に評価した調達が推奨されているものの、自治体について実施率はまだ低く、方針を持っていたとしても現状のままでは価格が優先されているなど課題も多くあります。
パワーシフト・キャンペーン運営委員会、一橋大学自然資源経済論プロジェクト、朝日新聞社および環境エネルギー政策研究所は、2019年6月~7月にかけ、都道府県、政令指定都市および再生可能エネルギー調達など注目すべき市区町村を対象に、本庁舎等の電力調達状況や方針について調査を行いました。
調査を通じて、自治体の電力調達やその方針について把握し、自治体にとって望ましい電力調達のあり方を考察、加えて自治体新電力設立の事例などを分析することで、再生可能エネルギーや地域経済循環を重視した電力調達の方法や方向性を展望しました。

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(11月11日:回答修正 山形県の環境配慮調達方針 なし⇒独自)
(11月25日:表記等修正 「一般競争入札での大手電力による落札(「取戻し」と表現)が目立つ」との表現に修正 ほか)

各自治体の契約状況一覧表(報告書の一部)はこちら
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<調査概要>
・調査タイトル
自治体の電力調達の状況に関する調査
・調査目的
電力システム改革、電力小売全面自由化を機に、全国に多数の新電力会社が発足し、電力小売をめぐる状況が変化している。その中で、自治体による電力調達も重要な役割を持っている。本調査は自治体の電力調達の状況やその方針についてアンケート調査をおこなってその状況を可視化し、望ましい電力調達のあり方を考察することを目的とする。
・実施主体
パワーシフト・キャンペーン運営委員会、
一橋大学自然資源経済論プロジェクト、朝日新聞社、環境エネルギー政策研究所
・調査対象と回答数・回答率
下記それぞれの環境担当部署
1)47都道府県 うち回答47(100%)
2)20政令指定都市 うち回答20(100%)
3)2017年度の「全国都道府県/市区町村再生可能エネルギー実態調査」で
「自治体自らが再生可能エネルギーの割合を考慮して電力を調達」と回答した46市区町村のうち、政令指定都市との重複をのぞくと38市区町村 うち回答25(65.7%)
4)その他、自治体新電力あり・予定など注目すべき市区町村(72) うち回答42(58.3%)
・集計数
総回答数は134、集計回答数はのべ139(カテゴリーA)、B)のうち一部はC)に重複して集計。)
*調査対象3)と4)のうち回答のあった自治体をC)、D)として整理した。
A)47都道府県(47)
B)20政令指定都市(20)
C)自治体新電力を持つ自治体(39)
D)その他の自治体(33)
・調査内容
本庁舎の電力調達先(2011~2019年度)、電力調達方針、再生可能エネルギーに関する方針 など
・調査方法
調査票をメールで送付し、メール等で回答を得た。必要に応じて、詳細に関する電話・訪問ヒアリングを実施した。
・調査期間
2019年6月下旬~7月下旬

<調査結果概要>
自治体本庁舎の契約において、大手電力電力が一般競争入札で落札する事例が約半数と目立っている
• 契約状況一覧から、2018年度から2019年度にかけ、一般競争入札での大手電力による落札(「取戻し」と表現)が目立つ。
• 47都道府県のうち、本庁舎の2019年度 の電力を大手電力から調達しているのは40(大手のまま16、取戻し22、大手戻り 2)、自治体新電力が1、その他新電力が6だった。
• 20政令指定都市のうち、本庁舎の2019年度の電力を大手電力から調達しているのは14(大手のまま2、取戻し10、大手戻り2)、自治体新電力が1、その他新電力が4だった。(1自治体は本庁舎建替えのため契約なし)

一般競争入札では最終的に価格判断となるため、総合評価落札方式の実施が有効
• 東京都庁(第一本庁舎)では、2019年度より一般競争入札の総合評価落札方式を導入し、再生可能エネルギー100%の供給をおこなう新電力と契約している。
• 静岡市では、総合評価落札方式により、地元の新電力と契約を行っている。
• 環境配慮契約の実施状況は、都道府県で53%、政令指定都市で55%と低い実施率にとどまる。
• 環境配慮方針の有無にかかわらず、大手電力会社への契約の戻りは起こっている。
• 環境配慮契約法の基本方針(電力調達)では、現状では裾切り方式 が例として示されており、再生可能エネルギーや地域の新電力との契約促進にはつながっていない。
• FIT電気の環境価値は全需要家に配分されており、CO2排出係数も全電源平均となっている。地域の再生可能エネルギーはFIT電気である場合も多く、環境配慮契約の方針策定と結びついていない。

自治体新電力を設立している自治体は、理由づけとともに随意契約で調達
• 自治体新電力を設立する動きが全国に広がっている。
• 自治体新電力をすでに設立している39の自治体のうち、本庁舎の2019年度の電力契約は、自治体新電力が32、大手電力が7(大手のまま4、取戻し3)だった。大手電力と契約している自治体は、本庁舎以外の公共施設で自治体新電力と契約している、もしくは設立後間もなく契約実績がまだない事例であった。
• 本庁舎の電力を自治体新電力から調達している場合、その調達方法はすべてが随意契約だった。地方自治法施行令第167条の2第1項第2号(その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき)により、随意契約を適用することができる。計画のなかに再生可能エネルギーの推進や地元電源の調達などを位置づけたりして理由づけしている場合が多い。
• 自治体電力を設立している自治体であっても、再生可能エネルギーや地元産電源の調達には課題を抱えている場合が多い。
• 自治体電力の設立の理由としては、地域経済循環や地域活性化、地域の再生可能エネルギーの活用などが挙げられている。

<提言>
(1) 自治体の電力調達は、地域の計画や経済のあり方と密接に関わっているため、価格のみを重視する調達ではなく、環境配慮や再生可能エネルギー、地域の新電力会社などを考慮した、総合的な観点からの調達が望まれる。自治体新電力の設立も有効な手段であり広がりを期待する。
(2) 自治体は、持続可能な地域づくりと地域活性化のための長期的なビジョンを作成し、地域社会や日本社会全体で共有していくことが必要である。
(3) 大手電力による一般競争入札での契約「取戻し」が目立つことの背景にある新電力との間の格差(電源保有、顧客情報など)の可視化と是正に向けた対応が必要である。
(4) 現在の環境配慮契約法の基本方針は、総合的な観点からの落札者決定を促すように改訂し、国だけでなく都道府県や基礎自治体にも義務化していく必要がある。

連絡先:パワーシフト・キャンペーン運営委員会 事務局
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9 FoE Japan内 (吉田、田渕)
info@power-shift.org  03-6909-5983