【プレスリリース】 再エネ新電力の危機 -大手電力会社による「取戻し営業」と水力によるRE100メニュー

【プレスリリース】 再エネ新電力の危機 -大手電力会社による「取戻し営業」と水力によるRE100メニュー

2019年1月31日
パワーシフト・キャンペーン運営委員会

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2019年、まもなく電力自由化から3年を迎えようとしています。新電力の販売電力量シェアは2018年9月時点で約14.1%となり、全面自由化前の約5%からは伸びています。しかし新電力の存在感が大きくなるにつれ、大手電力会社(旧一般電気事業者のみなし小売電気事業者)の大幅値引きによる巻き返しも激しくなり、新電力業界に深刻な打撃を与えています。

再エネ供給を目指す新電力も例外なく脅威にさらされています。多数の契約を取り戻されたり、営業努力が無駄になったり、ぎりぎりまで価格を抑えるために経営が圧迫されたりといった状況が続いているといいます。理念にかかげる地域でのエネルギー調達・地域への供給を進めるためのリソースを残すことも容易ではない状況です。

再エネ新電力と、再エネを選びたい企業に何が起こっているのでしょうか。そしてその背景に何があるのでしょうか。いくつかの事例を取材しました。

下図は供給区域別の特別高圧・高圧分野の新電力シェアです。特別高圧分野では、2017年度にかけて関西エリアでのシェアが上昇したものの現在は降下しています。高圧分野では、2018年7月以降、多くのエリアでシェアが下降しており、大手電力による巻き返しや、一部の新電力が大手電力の取次となった影響が考えられます。

「特別高圧・降圧分野の新電力シェア(供給区域別)」
(総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 2018年12月19日資料より)

 

 

  • 新電力にせまる危機―事例

高圧契約の半数を大手電力に取り戻された

関西電力(以下関電)管内で電力を供給する新電力A社は、「企業との高圧契約では、顧客の電力の使い方にもよるが、既存の料金よりマイナス10%程度が限界」と言います。託送料金や電源調達費用、営業費用などを考慮すれば当然のことです。言い換えると約10%以上の値引きができる会社は他事業の利益を充てているか、赤字覚悟で契約を取りに行くか、のいずれかが考えられます。

A社はさらに言います「ようやく獲得した顧客がいたが、関電がそこに18%引きの大幅値下げの提案を出した。これは自由競争の範囲なのか、経産省電力・ガス取引監視等委員会に抗議をしたが、委員会が直接関電に調査に入りギリギリ適正な取引であるとの回答であった。」「そこに別の新電力も入り、同等の値引率を示したため顧客が再見積もりを要求すると28%引きを提案し契約が成立した。18%から28%まで値引きすることができた根拠はないはず。再抗議したが未だに監視委員会からの回答はない。」

関電に契約を戻した数社からは「新電力A社のおかげで関電から非常に安価な電力を調達できることになって感謝している」とのコメントがあったそうです。A社自身は危機的な状況となり、経営の立て直しに四苦八苦している状況といいます。

 

老舗や優良企業はピンポイントで取り戻される

東京電力(以下東電)管内で電力を供給する新電力B社は、ある比較的大規模な介護施設と契約をしていたが、東電にB社より安価な価格で取り戻されたそうです。こちらは価格だけでなくやり方も気になったとB社。「施設の方によれば、ピンポイントで東電より電話が入り、契約を切り替える案内があったとのこと。東電は過去に切替が行われたお客様番号や住所や担当窓口の電話番号など顧客リストを持っているため任意のタイミングで東電本体あるいは代理店(値段交渉をその場で行い、手書きの削減見積りを提示するケースも確認)を経由した取り戻し営業が可能となっている。他案件でも狙い撃ち営業(新電力会社の排除)とも思える動きは確認している。」事務手続きもスムーズということで、顧客にとっても「戻りやすい」状況となってしまっているようです。ほかにも「弊社が契約していた顧客に「(契約後1年未満のため)B社との解約違約金を支払う(実質的な大幅値引き)ので」と働きかけをして取り戻された」事例もあるといいます。「大口のお客様や地域の老舗など、優良企業と思われるところは確実に取戻しにねらわれる。また他エリアの大手電力の進出もある。全ての案件ではないが、東電対比の電気料金総額から20%超の値引きも珍しくはなく、その水準でたたかうことはある。」

 

主要な自治体の入札では、まったく太刀打ちできないケースがある

新電力B社はまた、自治体への供給も行っており入札に参加していますが、そこでも状況は同じと言います。「とある自治体の入札に参加した際に、相場価格の提案を用意していったが、主要な自治体には大手電力会社が参加しており、開札単価の開示では他社が追随できない値引きの価格となった。ほかの新電力と比較しても勝負にならない単価であった、という状況はよくある。」一方で、小さい規模の入札には、大手電力は注目していないケースがあるそうです。「小規模の入札案件を確保することは不可能ではない」とB社は言います。

 

「RE100 」調達を目指す企業の既存大規模水力プランによる取戻し

大手企業が世界の流れに沿ってRE100への加盟を目指すために、再エネを調達する動きが加速しています。理念は再エネを普及させることですが、その流れに水を差しかねない動きがあります。新電力C社では、「顧客に再エネプランで協議中、東電による取り戻し営業がある。東電は大規模水力による再エネプランを割高な料金で提供しているが、その値引きを提案して再エネ新電力から取り戻しをしようとしている」。もともとが大規模水力で安価な電源であるだけに、値引きをされれば新電力の再エネプランは太刀打ちできません。また「追加性」も「持続可能性」もなく、再エネの普及には全く貢献しないものです。再エネ100%調達を目指す顧客がこのような大手電力の水力プランを次々と契約することになれば、目指すところとは異なり無意味、もしくはグリーンウォッシュの活動となってしまいます。

さらにC社は言います。「お客様と協議中であることが、なぜかわかっているようだ。顧客から委任状を取得した上で、顧客の電力量を調査しているということを把握できている可能性がある。」

 

  • スイッチング情報の営業利用は制限されるも、問題の構造は変わらず

こうした大手電力による巻き返しの動きはすでに全面自由化開始当初(2016年度)から始まっており、2018年度には、電力取引監視等委員会の制度設計専門会合でも、課題として議論されました。その結果、少なくともスイッチング情報を営業行為に利用することは問題であるとして、2018年12月27日、スイッチング期間中の「取戻し営業」行為を「問題のある行為」とし、取戻し営業を防止するための社内管理体制を構築することを「望ましい行為」とすることが「電力の小売り営業に関する指針」に追加されました。

・2018年12月27日 電力ガス取引監視等委員会「電力の小売り営業に関する指針」の改訂
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181227008/20181227008.html

しかし特に罰則があるわけでもなく、またスイッチング後の値引き提案自体は規制されるわけではないため、新電力が圧倒的に不利な状況は変わりません。このような状況が続けば、再エネを目指す新電力も含めて、倒産や方向転換を迫られる事態になりかねません。

 

  • 背景にある根本的なアンバランス

大手電力による大幅な値引きの背景には、大手電力が大規模水力(燃料費ゼロ)や原子力発電(燃料費安価)などの「発電コストの安い」電源を持っていることにあります。しかしこれらの電源は、自由化以前の総括原価方式によって、国民全体の負担によって建設されたものです。原子力発電については事故時の費用や廃炉費用も含めて国民全体で負担することとなっています。その電源を、旧一般電気事業者のみなし小売り電力会社が「自社のもの」として、値引きの原資とすることは、公正な競争行為とは言えません。このような状況が続き、新電力が次々と競争力を失ったり、意図するような経営方針を貫くことができなくなったりすれば、電力自由化はまったく骨抜きとなってしまいます。

「電源保有の構造」
みなし小売電気事業者と旧卸電気事業者(電源開発等)が出力ベースで83%を所有。

(電力ガス取引監視等委員会 競争的な電力・ガス市場研究会 2017年10月17日資料より)

「発電設備別の建設費および燃料費」

(出典:同上)

 

  • 再エネ新電力が事業を継続できる環境に向けて

新電力全体の危機の中で、再エネを重視したい新電力も例外なく大きな経営圧力を受けています。パワーシフト・キャンペーンは、再エネ新電力が顧客を増やして存在を示し、持続可能な形での再エネ調達を増加させることが重要と考えています。そのため、それに逆行する現在の状況を深刻にとらえています。引き続き、市場整備や制度設計の動向に注目していきます。

また、再エネ調達やSDGs目標に向けた電力調達を検討中の需要家が、安価・安易な大規模水力によるプラン等を選択する「グリーンウォッシュ」とならないよう、どのような電源による再エネなのかに注目した選択を呼びかけていきます。

2019年1月現在、2019年度の電力調達を検討している企業が多い中で、各社の営業・取戻しが佳境を迎えています。電力市場の不平等についてはすでに多数報道いただいていますが、電力自由化から3年を目前としたこのタイミングで、上記のような厳しい状況についてぜひ改めて取材・報道いただければ幸いです。特に、再エネ重視の新電力の動向についてご注目ください。

 

なお、2月8日に開催するシンポジウム「SDGsを実現する電力選択―エシカルな再エネが企業価値を高める」の中でも、再エネ新電力が直面する厳しい状況や、グリーンウォッシュとならない形での再エネ調達についてテーマとして扱います。あわせてご参加いただけましたら幸いです。
http://power-shift.org/symposium_190208/

 

パワーシフト・キャンペーン運営委員会
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