2022年末から、大手電力によるカルテルや送配電部門の顧客情報の不正閲覧など、様々な不正が明らかになっています。
パワーシフト・キャンペーンでは4月14日、以下のコメントを出しました。
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ゆらぐ電力システム改革と電力自由化
―大手電力による様々な不正の発覚を受けて―
2023年4月14日
パワーシフト・キャンペーン運営委員会
電力システム改革は、原発事故後の電力需給ひっ迫や電気代上昇を背景として2013年に決まった政策で、「電力の安定供給の確保」、「電気料金上昇の抑制」、そして「需要家の選択肢の拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出」が主な目的とされました。大手電力の地域独占・垂直統合を解いていくことが意図され、2015年から2020年にかけて3段階で進められました。1段階目が2015年の「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」の設立、2段階目が2016年の小売全面自由化、3段階目が、2020年までに実施された送配電部門の法的分離(子会社化)です。
ところが、2022年12月以降明らかになった大手電力による様々な不正は、当初から電力システム改革で意図された公平で自由な競争がまったく確保されていなかったことを明らかにしました。すでに小売全面自由化から7年経ち、不正の横行する歪んだ競争環境の中で、事業撤退や経営難を余儀なくされた新電力も多数存在します。今後、さらなる調査や厳正な処分を行うとともに、電力システムそのものを根本から見直さなければなりません。
1.大手電力カルテルと大手電力の顧客取り戻し
2022年12月初旬、関西電力と中部電力、九州電力、中国電力が2018年秋以降にそれぞれ結んでいたカルテルが、公正取引委員会によって明らかにされました。企業向け等の特別高圧や高圧を対象に、互いに相手の管轄区域で顧客獲得を控えるよう示し合わせていたというのです。公正取引委員会は12月14日、1年かけて大規模な調査を行うと発表しました。
小売全面自由化を機に、多くの新電力が小売事業に参入し(2023年4月現在約700)、全面自由化当初から危機感を持っていた大手電力は、大幅値引きによる巻き返しを行っていました。これにより、再エネ供給を目指す新電力も、契約を取り戻されたり、ぎりぎりまで価格を抑えるために経営が圧迫されたりと、例外なく脅威にさらされていました。特に地域の老舗企業や大企業、自治体の公共施設の契約などで、2018~2019年度にかけて巻き返しが顕著にみられ、パワーシフトが関係する複数の新電力からも具体的な声が寄せられていました(*1)。パワーシフト・キャンペーン等が2019年に行った「自治体の電力調達の状況に関する調査」(*2)でも、都道府県や政令指定都市で、庁舎や公共施設で一度新電力と契約したのち大手電力に戻った事例が多く見られました。
これらの出来事の背景にも、大手電力のカルテルがつながっていた可能性があります。つまり、今回のカルテルで示されたような申し合わせにより、大手電力がそれぞれ自エリアでの価格競争に注力することができていたことが推測されます。
2023年3月30日、公正取引委員会は、12月に明らかになった大手電力のカルテルについて、排除措置命令および課徴金納付命令を出しました(*3)。各社に多額の課徴金支払いが命じられていますが、最初に申告した関西電力は、独占禁止法の規定に基づき、課徴金が免除されている状態です。
電力ガス取引監視等委員会も、3月30日に「本件カルテルは、独占禁止法に違反するとともに、電気事業の適正な運営や健全な発達を阻害するものとして、電気事業法の精神に反する。電気事業法に基づく対応について、電力の適正な取引の確保を図る観点から適切に検討する」という趣旨の談話を出しています(*4)。経済産業省は、法令違反への厳正な対処を行うべきです。
2.小売部門による顧客情報不正閲覧
2022年12月末には、関西電力の小売部門の社員が、子会社の関西電力送配電が持つ新電力の顧客情報を不正に閲覧していたことがわかりました。電力システム改革で、各大手電力の送配電部門は2020年度までに子会社として分離し、中立、公平な運営を行うことが求められています。顧客情報は言うまでもなく厳重に管理すべきものであり、親会社の小売部門に漏洩することは電気事業法違反です。不正閲覧は、2016年の小売全面自由化開始から、2022年まで6年半以上にわたって続き、一部営業活動にも使われていました。2023年1月にはさらに東北電力、九州電力、四国電力、中部電力、中国電力、沖縄電力でも同様の不正閲覧や情報漏洩・マスキング漏れがあったことが判明しました。
3月31日、電力ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に対し、関西電力送配電株式会社、関西電力株式会社、九州電力送配電株式会社、九州電力株式会社及び中国電力ネットワーク株式会社への業務改善命令を行うよう勧告が出されました(*5)。しかし、その内容は、再発防止に向けた業務改善と関係者の処分にとどまっています。
そもそも一部の大手電力では、送配電部門と小売部門の情報システムが分離されていません。マスキング程度の処置では、不正は何度でも繰り返されるでしょう。送配電分離というのならば、システムを物理的に分けたり事業所の建物も別にしたりなど、当然の「分離」が行われるべきです。
内閣府再エネタスクフォースはさらに、3月2日の会合で、現状の送配電部門の法的分離では不十分であり、所有権分離に踏み込むべきであること等を提言しています(*6)。
3.大手電力による市場価格操作
3月30日の公正取引委員会の命令の中には、調査の中で明らかになった事項として「第3 電力ガス取引監視等委員会への情報提供」が含まれています(末尾に抜粋を掲載)。その中には、大手電力内部の卸供給価格を新電力向けよりも安く設定していたことや、大手電力から卸市場への電気の供給量の絞り込みを行い、市場価格を引き上げていたことなどが報告されています。2022年の市場価格の高騰時、電力ガス取引監視等委員会において、このような不正がないかどうか調査が行われ、「不正はない」との報告が繰り返されていた件です。公正取引委員会の報告内容は、期間や詳細は明らかにされておらず、カルテルが行われていた時期、すなわち市場価格高騰以前の状況である可能性はあります。しかし、価格高騰以前にすでに不正が行われていたのであれば、価格高騰時にも同様に行われていた可能性は否定できません。この情報提供をもとに電力ガス取引監視等委員会で再調査を行うとともに、各社に対する処分を行うべきです。
また電力ガス取引監視等委員会は3月30日、中国電力に対して、2022年の一部の時期に燃料の消費を抑制することを目的としてスポット市場で高値での買い入札を継続的に行っていたとする勧告を出しています(*7)。
いずれにしても、大手電力は卸市場に対し大部分の電力販売を行い、また同時に大部分の買い入札も行っているため、実質的に市場操作ができる状態です。2021年から2022年にかけての電力市場価格高騰が、新電力、とくに再エネを重視する新電力に深刻な打撃を与えてきました(*8)。事実関係を解明し、一刻も早い処分と対策を求めます。
大手電力による市場支配の背景として、東京電力と中部電力以外の大手電力において、発電部門と小売部門が一体のままであることも問題です。自社内の取引については外部に公開されず、優先的な取引が当然可能な状態です。発販分離を行い、大手電力の発電所の電気は、新電力と大手電力とが平等な条件で取引すべきです。
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これら一連の大手電力による度重なる不正は、非常に重大で深刻な問題です。すでに多数の新電力の経営を追い詰め、業務停止や撤退を余儀なくされたところも出ているなか、電力自由化から7年目を前にした、あまりに「遅きに失した」判明と言えます。加えて、電力システム改革自体の不十分さや綻びも明確に示されています。
経済産業省や大手電力各社は、公正・公平な自由競争という電力小売システム改革・電力自由化の根幹がすでに崩れているという事実を直視する必要があります。改善命令や関係者の処分にとどめることは許されません。これを機に、大手電力に優位性が残る現状の電力システムの抜本的な改革を行わないことには、今後の日本の電力の安定供給すら先が見えません。
パワーシフト・キャンペーンは改めて、再生可能エネルギーを中心とした電力システムへの移行と、そのための電力システムの再改革を強く求めます。
注
*1 パワーシフト・キャンペーン「再エネ新電力の危機-大手電力会社による『取戻し営業』と水力によるRE100メニュー」2019年1月31日 https://power-shift.org/release_190131/
*2 パワーシフト・キャンペーンほか「自治体の電力調達の状況に関する調査報告書」2019年10月30日
https://power-shift.org/jichitai-report2019/
*3 公正取引委員会「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」2023年3月30日https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html
*4 電力・ガス取引監視等委員会委員長談話「大手電力会社等に対する公正取引委員会による排除措置命令及び課徴金納付命令について」2023年3月30日https://www.emsc.meti.go.jp/committee/statement/20230330001.html
*5 電力・ガス取引監視等委員会「一般送配電事業者の情報漏えい事案に関し、経済産業大臣に対する勧告を行いました」2023年3月31日https://www.emsc.meti.go.jp/info/public/news/20230331001.html
*6 内閣府再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース「大手電力会社による新電力の顧客情報の情報漏洩および不正閲覧に関する提言」2023年3月2日(第25回会合資料)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20230302/230302energy08.pdf
*7 電力・ガス取引監視等委員会「中国電力株式会社に対する業務改善勧告を行いました」2023年3月31日
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331013/20230331013.html
*8 パワーシフト・キャンペーン「再エネの未来をまもろう~でんきの市場価格高騰に対策を~」2022年7月1日
https://power-shift.org/220701_jepx_syomei/
【参考】公正取引委員会「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」より抜粋
第3 電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供
本件審査において認められた以下の事実等について、電気の小売供給市場における競争の適正化を図るため、電力・ガス取引監視等委員会に対し情報提供を行った。
1 違反事業者により、前記第1の2の独占禁止法違反行為が行われ、排除措置命令を行ったこと。
2 旧一般電気事業者及びその販売子会社は、会合等において、営業活動に関する情報交換を行っていたこと。また、旧一般電気事業者及びその販売子会社は、自社の供給区域外の顧客に営業活動を行う際に、当該区域を供給区域とする旧一般電気事業者に対して、「仁義切り」などと称して、当該顧客に営業活動を行うことなどに関する情報交換を慣習的に行っていたこと。当該情報交換は、旧一般電気事業者及びその販売子会社の代表者、役員級、担当者級といった幅広い層で行われていたこと。
3 電力・ガス取引監視等委員会が、旧一般電気事業者及びその販売子会社の小売供給価格を監視するモニタリング調査を行っていたところ、旧一般電気事業者及びその販売子会社の中には、当該調査を行っていたことを利用し、他の旧一般電気事業者に対し、安値での小売供給に関して牽制等をしていた者がいたこと。
4 旧一般電気事業者の中には、競争により顧客移動が生じていることを示すために、価格競争によらず、相互に顧客を獲得することを企図していた者がいたこと。
5 旧一般電気事業者の中には、各供給区域における電気の需要の大部分に相当する電気を自ら発電又は調達してきたところ、自社又はその販売子会社の小売価格及び自社の販売子会社に卸供給する価格を、当該販売子会社以外の新電力(注10)に卸供給を行う価格よりも安価に設定していた者がいたこと。
6 旧一般電気事業者の中には、卸売市場への電気の供給量の絞り込みを行い、市場価格(注11)を引き上げることなどにより、外部からの調達に依存する新電力の競争力を低下させることを企図していた者がいたこと。
7 旧一般電気事業者の中には、新電力に対し、相対取引で電気の卸供給を行うに当たり、当該旧一般電気事業者の供給区域においては当該電気の小売供給を行わないように求めていた者がいたこと。
(注10)「新電力」とは、電気の自由化により新規に参入した小売電気事業者をいう。
(注11)日本卸電力取引所からの調達価格