2023年6月16日に決定された内閣府の「規制改革実施計画」に、「旧一般電気事業者の送配電部門の所有権分離についてその必要性や妥当性、長所・短所を含めて検討する」ことが書き込まれました。
現在は「法的分離」(子会社化)の状態で、大手電力会社の発電・小売部門もしくは持株会社の子会社として、送配電会社があります。
所有権分離とは、別会社化に加え、発電・小売会社との資本関係も解消することです(完全別会社化)。
これまで、まったく議論の俎上にあがっていなかった所有権分離について、「検討する」と書かれたことは大きな一歩です。その背景をまとめました。
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2022年の12月以降に発覚した大手電力のカルテルや不正により、電力システム改革の根幹がゆらいでいます。
>ゆらぐ電力システム改革と電力自由化ー大手電力による様々な不正の発覚を受けて―
https://power-shift.org/230414_denryokukaikaku/
これらを受け、内閣府の「再エネタスクフォース」は3月に、送配電部門の所有権分離を含む構造改革を提言していました。
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20230302/230302energy08.pdf
送配電部門の分離のあり方について、2013年2月の「電力システム改革専門委員会報告書」では、「中立性を実現する最もわかりやすい形態として所有権分離があり得るが、これについては改革の効果を見極め、それが不十分な場合の将来的検討課題とする」とされ、より容易に実施できる法的分離が選択されました。 20130515-1-1.pdf (ndl.go.jp)
2022年末になってようやく、送配電子会社と親会社との情報遮断が不十分であり、不正さえ起こっていたことが明らかになり、いよいよ所有権分離の検討に踏み込むべきではないかというのが、現在の議論です。
2023年3月から4月に開かれた資源エネルギー庁や電力ガス取引監視等委員会の有識者会議では、罰則や規制の強化については議論が行われているものの、所有権分離の検討について否定的な意見が相次いでいました。
しかしその後、6月16日に閣議決定された内閣府の「規制改革実施計画」には、「旧一般電気事業者の送配電部門の所有権分離についてその必要性や妥当性、長所・短所を含めて検討する」ことが書き込まれたのです。(以下の39ページ、項目59)
01_program.pdf (cao.go.jp)
この経緯について、衆議院議員阿部知子氏からの質問に対し、内閣府から以下の回答がありました。
・本年3月2日に内閣府再エネタスクフォースにおいて、電力会社の不正閲覧・情報漏洩問題を踏まえ、構成員から、電力会社の送配電部門の所有権分離等について提言が発出された。
・また、本年5月15日、消費者担当大臣から経済産業大臣あてに「電力市場における競争環境整備に向けた諸課題について(意見)」が発出され、その中でも、電力会社の送配電部門の所有権分離等に言及がなされた。
・これらを踏まえ、6月16日に閣議決定された規制改革実施計画において、送配電部門の所有権分離も含めた検討が書き込まれたものである。
消費者委員会からの「電力市場における競争環境整備に向けた諸課題について(意見)」は、こちらです。今回の一連の問題の経緯についても、資料にまとまっています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/price_measures/trends_in_prices_001/
すでに述べたように、資源エネルギー庁と電力ガス取引監視等委員会の有識者会議では、所有権分離に否定的な意見が多く出されていました。また西村経産大臣も「災害が起きたときの対応など留意すべき課題もある」として慎重に検討する姿勢、電気事業連合会会長も「事業者の立場では災害対応や安定供給でのメリットを考えるとグループ内で協力しあう方が効率的だ」と訴えていると報道されています。
・日経新聞「送配電の資本分離、政府検討 供給懸念で実現は不透明」2023年6月16日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA089JU0Y3A600C2000000/
今回、「規制改革実施計画」に「所有権分離について必要性や妥当性、長所・短所を含めて検討する」と書き込まれたことを一歩として、今後どのように議論が行われるのか、引き続き要注目です。
2023年7月
パワーシフト・キャンペーン運営委員会