電力システム改革は、原発事故後の電力需給ひっ迫や電気代上昇を背景として2013年に決まった政策です。
大手電力の地域独占・垂直統合を解いていくことが意図され、2015年から2020年にかけて進められました。
・2015年:電力広域的運営推進機関(OCCTO)の設立
・2016年:小売全面自由化 👈これをきっかけにパワーシフトがスタート
・~2020年:送配電部門の法的分離(子会社化)
3段階目の電気事業法改正で、「5年以内に」と規定されていた電力システム改革状況の検証が、2024年に行われようとしています。
経済産業省の審議会(電力・ガス基本政策小委員会)で検証にあたっての意見募集が呼びかけられ、パワーシフト・キャンペーンからも2月21日、意見を提出しました。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/069.html
現在の電力システムは、原子力や火力を中心とした古い考え方のままで、
再エネのさまたげとなってしまっています。
太陽光、風力など変動する再エネをこれからもっともっと導入していくために、大きな方向転換が必要です。
①小売全面自由化 ←大手電力独占の解体を
②市場機能の活用 ←公正な競争環境を
③送配電の広域化・中立化 ←所有権分離を行い公平・中立な運営を
④供給力確保策 ←再エネ最優先の電力システムへ
<電力システム改革の検証に関する意見>
パワーシフト・キャンペーン運営委員会
①小売全面自由化
意見内容:大手電力と新電力の非対称な関係を是正すべき。大手電力の発電部門と販売部門は分離すべき
詳細・理由:
電力小売全面自由化からまもなく8年を迎える。
新電力のシェアは、約5%から2021年度には20%以上まで伸びたものの、その後の市場価格高騰などを受け低下し、2023年度は16~17%程度となっている。
大手電力による取り戻し営業や低価格での入札参加も見られるなど、大手電力が圧倒的な競争力を持っている状況には大きな変化がない。
大手電力は、自由化以前に建設された大規模発電設備の大半を所有している。減価償却の進んだそれらの「安価」な電気を自社で優先的に使用していることが、その背景にある。
2024年1月発表の公正取引委員会「電力分野における実態調査報告書(卸売分野について)」(*1)でも、大手電力発電会社と大手電力小売会社に対して長期契約で卸売りを行い、大手小売がその余剰分を新電力に卸すという関係にあったことが指摘されている。
さらに、東京電力・中部電力以外では発電部門と小売部門が一体のままであり、自社内部での補助や不透明な形での取引が行われている。大手電力小売部門が、調達価格を下回る小売価格を設定していた事例が確認され、独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘されている。
発電部門と小売部門の分離を進めるとともに、大手発電部門の電力は公平に(内外無差別に)新電力も含めた各社に供給すべきである。
*1 公正取引委員会「電力分野における実態調査報告書(卸売分野について)」2024年1月17日
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jan/240117.html
②市場機能の活用
意見内容:公正な競争環境を確保すべき
詳細・理由:
2021〜2022年度の電力市場価格高騰では、卸売市場からの購入の多い新電力だけでなくFIT電気の調達割合の高い新電力も大きな打撃を受けた。しかし制度の見直しは十分になされておらず、打撃への補正や補填もない。電力販売を停止したり事業から撤退した事業者もあらわれている。またその背景には、大手電力が自社内部への供給を優先し、市場への電力供給が絞られたり、大手電力による高値での買い入札があったことが公正取引委員会の調査でも指摘されている(*2)。
2020年度から導入された容量市場についても、大手電力は発電部門での受け取りがある一方、大規模な発電設備を持たない新電力は容量拠出金分の負担が増え、価格差や経営体力の差につながる。ここでも格差が拡大し、競争力がゆがめられている。
*2 公正取引委員会「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」2023年3月30日https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html
③送配電の広域化・中立化
意見内容:所有権分離を行い公平・中立な運営を行うべき
詳細・理由:
送配電部門の分離のあり方について、2013年2月の「電力システム改革専門委員会報告書」では、「中立性を実現する最もわかりやすい形態として所有権分離があり得るが、これについては改革の効果を見極め、それが不十分な場合の将来的検討課題とする」とされ、より容易に実施できる法的分離が選択された。
2022年末、送配電子会社と親会社との情報遮断が不十分であり、不正さえ起こっていたことが明らかになった。内閣府再エネタスクフォースなどで、送配電会社の独立性・中立性の確保のために、所有権分離の検討に踏み込むべきという議論もあり、2023年6月の規制改革実施計画でも検討の必要性が書き込まれた。審議会の議論では否定的な意見が出されているが、今こそ、中立性・公平性の確保にむけて所有権分離を検討する必要がある。
④供給力確保策
意見内容:再エネ最優先の電力システムへの大きな変革を行うべき
詳細・理由:
第5次エネルギー基本計画(2018年)で「再エネ主力電源化」がうたわれ、COP28でも日本政府を含む世界110カ国以上が2030年までに再エネの設備容量を世界で3倍に合意したが、その大部分は太陽光発電と風力発電という自然変動型再エネ電源(VRE)である。
この自然変動型再エネ電源(VRE)を軸に抜本的な再エネシフトをすることこそ、気候危機対応、エネルギー安全保障、エネルギーコストの安定化も両立しうる道筋である。
日本ではこれまで、再エネ(VRE)の割合が小さかったため、供給力の確保は、火力発電や原子力発電の設備容量の維持とほぼイコールで語られてきた。容量市場や長期脱炭素電源オークションは、そのような電源を維持する制度であり、古い火力発電や原子力発電をも温存し、再エネを中心として活用する電力システムへの移行を妨げている。
今後、太陽光発電と風力発電という自然変動型再エネ電源(VRE)を飛躍的に拡大するためには、送電システムや電力市場など電力システム全体を供給と需要の双方において柔軟性を高める方向で整備してゆく必要がある。柔軟性の低い大規模電源はそれと逆行するため、廃止していくことが必要である。
デマンドレスポンスや蓄電、電力融通などに加え、再エネ熱利用や交通なども含めたエネルギーの使い方の見直しも必要である。日本でも再エネ社会を実現するための抜本的な電力システム改革こそ、今行うべきである。
再エネ出力抑制で先行する九州電力エリアでは、2023年の再エネ(VRE)比率 (18.5%)に比べて年間で9%もの出力抑制が行われた。これは、スペイン(2022年にVER39%で出力抑制2%)、ドイツ(2021年にVER28%で出力抑制3%)、英国(2022年にVER25%で出力抑制5%)、カリフォルニア州(2022年にVER25%で出力抑制4%)、チリ(2022年にVER31%で出力抑制6%)などの諸外国と比較すると、VRE比率の低さに比べて相対的に出力抑制率が大きすぎる。これは、九州電力における系統の「柔軟性」が低いことを表しており、洋上風力を含めて、これ以上の再エネ(VRE)導入の最大の障壁になっているため、早急に改善が必要である。
すぐに着手すべき具体的な措置として、以下が求められる。
(1)火力最低出力の深掘り
国が検討している個別火力50%→30%では効果は限定的である。一般送配電事業者の親会社である旧一般電気事業者は、自社の収益のためにすべての火力を最低出力限度まで動かそうとすることが原因である。したがって、本来の意味の再エネ優先に向けて、一律30%よりも、さらに下げる仕組みが必要である。
本質的には、発送電分離と電力会社の全電源が市場参加することで達成できる。それまでの過渡期には、天然ガスを需給調整として優先し、最低出力の高い石炭火力は予防的に停止するなどの措置を行うことが求められる。
(2)広域での最低出力化への対応
現状比較的余裕のある中央3社(東京電力、中部電力、関西電力)は、周辺の一般送配電事業者から余剰電力を受け入れ、自社(親会社)の火力発電を抑制するインセンティブや規制はない。そこで広域で火力の最低出力化を促して柔軟性を高めるしくみや規制が必要である。関門連系線などの地域間連系線を最大限活用することも必要である。
(3)給湯器(エコキュートと電気温水器)の深夜需要を昼間へシフト
現状、旧一般電気事業者は、いまだに深夜電力に給湯器(エコキュートと電気温水器)などの需要を誘導する料金メニューを提供しているが、これを昼間にシフトさせるよう、規制指導すべきである。これによって、九州だけで300万kW規模、日本全国で1500万kW規模のピークシフトが期待できる。
(4)出力抑制に対する経済的補償(VREの調整力としての活用の一環)
現状の出力抑制は「無制限無保証」のもとで行われており、一般送配電事業者にとっては、事実上、「止め放題」のモラルハザードを起こしている。本来、出力抑制は、VREの調整力としての活用の一環であるため、モラルハザードを回避するためにも経済的補償を行うべきである。なおその原資はFIT賦課金ではなく、その性質上、託送料金とすべきである。
(5)原子力発電も柔軟性向上に参加させるべき
本来、社会経済的便益が高いVREこそ、原子力よりも電力市場で最優先されるべきである。ただし、原子力発電の短期変動は安全性の問題を起こすことから、春期に定期点検時期を調整する、春期は一定低出力運転を実施するなどで原子力発電も柔軟性向上に参加させるべきである。
(6)系統蓄電池等の急速・大規模導入
系統蓄電池の急速・大規模導入は、すべてのプレイヤーにとってメリットがある。2030年で40GW・160GWh規模の系統蓄電池導入に向けて、官民を挙げた取り組みが求められる。
(7)既存FIT電源への蓄電池優遇・誘導(発電側調整/BTM:Behind the Meter)
既存FIT電源は、ここまでの出力抑制を想定しないまま、多くは無制限無補償の出力抑制という条件のもとで系統連系契約を締結しているが、これは優先的地位の濫用に該当する。第4項の経済的補償と合わせて、発電所併設型の蓄電池(発電側BTM)を設置することで、出力抑制に対する防衛策を促すことで、系統全体の柔軟性向上にも貢献するため、双方にメリットがあるため、その優遇策や誘導をすべきである。
(8)余剰FITを活用したスマート逆潮流によるDR拡充(需要側調整/BTM)
家庭の太陽光発電余剰電力を買い取るFIT制度は、すでに太陽光発電が昼間の電力余剰を生み出している状況から、今のままでの継続は制度的に矛盾している。今後は、太陽光と蓄電池をセットで普及する制度に改めるべきである。具体的には、ハワイ電力が実施しているスマート逆潮流(日中の電力は購入せず、朝と夕方以降の電力を買い取る制度)を参考にして、現状の余剰FIT制度に改めて、太陽光と蓄電池をセット(需要側BTM)で普及するよう促しつつ、これを今後のDR拡充に活かすすべきである。