パワーシフト電力会社セミナー・意見交換(第1回)を実施しました

電力小売全面自由化から4年がたちました。再エネを重視する新電力も各地に生まれ、それぞれに個性的なビジョンを打ち出して、試行錯誤を重ねています。

再エネの電気を選びたいという消費者も少しずつ増え、企業や事業所にも、再エネを選択する動きが広がっています。

一方、再エネを重視する新電力にとって、厳しい状況であることも確かです。

電源保有や顧客情報保有、知名度・広報力で圧倒的に有利な大手新電力による価格攻勢には、

再エネ新電力の多くも苦労している状況が伝えられています。

また、日本のエネルギー政策自体が、本腰を入れて再エネを主力電源化していく方向とはなっておらず、石炭火力や原発なども依然使い続けていく方向です。

このような状況下で、再エネを重視する新電力が相互に課題を共有し、政策課題に対しても連携した働きかけなどを行っていくことが不可欠です。

そこで、パワーシフト・キャンペーンでは、当会につながる新電力のみなさんとともに、電力システム改革や再エネ・エネルギー政策に関する情報共有・意見交換の機会を設けたく、勉強会を企画しました。基本的に電力会社とメディアおよびキャンペーン運営メンバー対象で非公開ですが、このような形で報告するとともに、時期がくれば公開のシンポジウムや交流会もできればと考えています。

第1回目は5月26日(火)に開催、約30名(うち電力会社6社)が参加しました。

株式会社ニューラルの夫馬賢治さんにゲストとして来ていただき、今国会で審議されている「エネルギー供給強靭化法案」について概要を勉強、また各社の現状や悩みについても共有しました。

【1】エネルギー供給強靭化法案についての共有

「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」 2020年2月25日 閣議決定

https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001.html

この法案は、電気事業法の一部改正、再エネ特措法の一部改正、JOGMEC法の一部改正が「エネルギー関連」ということでセットにされていますが、それぞれは別々の審議会で議論されてきたものです。

 

(法案の全体像:経済産業省資料)

夫馬さんからの情報共有をふまえた概要は以下です。

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・全体として、再エネ事業にとって厳しいものであり、「再エネを主力電源化する」と掲げながら、残念ながらその方向にはなっていない。

<再エネ政策>

・日本では再エネコストはまだ高い状況だが、それでも賦課金は削減される方向。

・競争電源(大規模な電源)については、FIP制度(市場価格に連動した方式)へ移行される。蓄電池などを活用して、市場価格の高い時間に売電するように工夫されることが意図される。

・地域活用電源(小規模電源)については、企業の自家消費についても導入しやすい制度整備を盛り込んだ。

(*ただし、輸入バイオマスについても例外として地域活用電源のくくりに入れられていることは問題)

・地域活用電源の重視とあわせて、分散型ネットワークを形成しやすくする方向へ。配電事業への新規参入開始、遠隔地では配電網の独立化も可能となる。

・自家発電・自家消費が推奨される。

<系統制約の問題>

・これまで発電事業者から指摘されていた課題は「つなげない」「コストが高すぎる」「接続が遅すぎる」だった。今回の法案では、かゆいところに手が届いていない。この3、4年間の議論でどんどん歪んできてしまった。

・系統活用の優先順位は現状のまま据え置き(原子力や水力のほうが優先)、太陽光や風力は引き続き出力制御の可能性がある。

・系統接続の費用負担について、ローカル系統についてはほぼ議論がなく、発電者側に重い工事負担金については据え置き。

・既存の系統の活用改善(日本版コネクトアンドマネージ)はすでに着手されている。

・地域連携線の増強費用については、全国一律で大手電力が負担。再エネ賦課金として課金される方向。

・政府の説明としては、全体のコスト削減ということ。系統整備にかかる費用は増加するが、再エネ発電コストが下がるので、「全体として低減」としているが、本当にそうなるかは不明。大手電力会社の系統整備費用の効率化が実効的に進むかどうかにかかっている(託送制度改革や新設の「レベニューキャップ制度」の実効性がカギ)。

・法案には入らなかったが、送配電網の整備費用について、現状は小売側の負担だが、発電側にも課金する制度も議論された。kW単位での課金の場合、kWhあたりに直せば再エネに不利。そのため反対の声が大きく、法案には入らず継続審議というかたちになって。(*ただし、kWhあたりにすると停止中の原発が課金されず、それも不公平である点が議論のなかで指摘された)

<太陽光発電の廃棄コスト外部積立>

・10kW以上のすべての太陽光発電が対象で、源泉徴収的な外部積立(FIT終了前10年間)で、廃棄の際に具体的な計画とともに支給される。小規模発電事業者にとって財務の柔軟性が低下する。

<化石燃料の調達について>

・JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)法改正により、政府による化石燃料調達の権限を強化するものになっている。

・民間企業や銀行、保険会社が、化石燃料調達から手を引き始めている。そこで政府が肩代わりしていこうというのがこの法案と読み取れる。

・「有事の際」の安定供給への対応として話が出てきたが、法案をよくみると、有事でなくても石炭も含めて化石燃料を調達できるようになった。

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【2】『ESG思考』

さらに、夫馬賢治さんより新著『ESG思考』を紹介。世界では大企業も環境・社会への影響を考慮し、さらにそれによって経済的利益も増えると考える「ニュー資本主義」へ移行しつつあるとのこと。今後日本企業も、その方向に舵を切っていくことが欠かせないと指摘されました。

 

【3】電力会社各社の状況と、今後に向けて

今後にむけた意見交換では、このような電力会社の意見交換の場は貴重であり、次回以降も期待するとの声がありました。

・複雑な制度状況を整理する機会となった。

・再エネ電力会社で共同して制度の壁を破る、具体的な提携もできるとよい。

・再エネ調達が必ずしもコストアップにはならない、コストダウンする場合もある。

・自治体の調達への働きかけなども重要。

 

また営業・顧客獲得には、各社やはり苦労しているという話も出され、その部分はまさに、パワーシフトで応援・連携すべきところだと改めて確認しました。

 

パワーシフト・キャンペーンでは、電力会社勉強会を今後も継続するとともに、シンポジウムなどで、参加者も含めて一緒に考える機会をつくっていきます。
(2020年6月1日)