2021年1月の市場価格の急高騰は、再エネ新電力各社に大きな衝撃と打撃を与えました。
(https://power-shift.org/210122_jepx/)
春から夏にかけては、市場価格は落ち着いていましたが、実は秋から、再び高騰が起こっています。通常時は平均で8~9円程度だった電気の市場価格が、10月から上昇、11月から12月には平均で18円程度と、2倍近くに。
そして1月にはさらに上がり、平均30円前後、3倍もの価格の日が増えています。
前回の市場価格高騰は1か月でしたが、今回は数か月続きそうで、再エネ新電力にとって再び大きな脅威となっているのです。
- 大手電力の電気代も上がっている?
今、世界全体で液化天然ガス(LNG)や原油など化石燃料の価格が上がっています。
日本では現在、発電の8割近くを化石燃料(天然ガスや石炭)に頼っているため、この燃料費の上昇が、電気料金に影響しています。
・世界的なLNG価格の高騰(経済産業省資料より 第43回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会)
東京電力など大手電力会社の電気料金も、この燃料費分の上昇によって実は1年間で1000円以上値上がりしていると報道されています。
この値上がりは、「燃料費調整」という制度で新電力も含めてほとんどの電力会社に影響しています。ただ、電力会社の経営に与える影響でみれば、再エネ新電力と大手電力の間に大きな差があるのです。それが、燃料費上昇よりも更に大きい「でんきの市場価格の高騰」です。
- 再び、でんきの市場価格が上がっている原因は?
でんきの市場とは、発電会社と小売会社が、電力量(kWh)を売り買いする場です。
簡単にいうと、電気の売り手は主に発電所をたくさん持っている大手電力や発電会社(JERA)で、買い手は自社の発電所が少ない新電力です。
昨年度のでんき市場価格高騰は、原発のトラブル停止などもあってLNGの在庫量が減少したことを発端として、システムの不備や大手電力と新電力の情報格差などによって、異常な価格高騰が起こりました。
でも今回は、LNGの在庫量自体は安定していることが確認されています。
それでも高騰が起こっているのは、発電所や化石燃料を持っている大手電力が、価格を上げるような入札をしたことが原因だと、政府の調査でも指摘されています。大手電力は、利益を最大化するためにLNG燃料を転売したり、燃料価格が上がっている時に高い値段で電気を市場に売ったりすることができる状況です。
電力システム改革をしてもなお、大手電力の力がまだ圧倒的に大きく、再エネ新電力に不利な状況が今回もあらわれてしまいました。
- 再エネ新電力にとってどのくらいの痛手なの?
前述のように、電気の卸市場からの仕入れ価格が約3倍になっています。燃料費高騰の継続や、電力需要が高い冬季の状況に照らせば、少なくとも3月ごろまでは続くでしょう。
さらに、FIT電気の仕入れ価格も、現状市場価格に連動する制度のため、同じく高騰してしまっています。再エネ新電力は、「連動させる」制度を変更するよう求めていますが、見直しの動きはありません。
*昨年の記事も参考に(https://power-shift.org/210122_jepx/)
再エネ新電力の電気の仕入れ状況をみると、このように仕入れ価格の大部分で、電力市場価格高騰の影響を受ける構造になっています。
自社で化石燃料の発電所を持っていない再エネ新電力が、このような理由で大きな打撃を受けているのです。事業の継続にさえ影響を与えている場合もあり、深刻な状況です。
今回の価格高騰でも、輸入化石燃料に大きく依存していることの危うさが露呈しています。また、大手電力と新電力、特に再エネ新電力との間の事業環境の格差も深刻です。再エネ新電力が経営的に淘汰され、大手電力による寡占がさらに強まることも今後懸念されます。
一方で、太陽光よる発電量が増える晴れた日の昼間などは、市場価格が下がるなど、再エネが増えてきたことによる変化も起こっています。
再エネ新電力も、市場価格に左右される電力調達からできるだけ脱するために、非FITの再エネ調達を増やす方向に動いています。
しかし、このような先が見通せない状況がいつまで続くのでしょうか。今年の夏、来年の冬にも、燃料費の高騰や電力逼迫の恐れがすでに予測されており、そうなれば同様の市場価格高騰も十分に予想されます。
パワーシフト・キャンペーンとしても状況に注目し、再エネ新電力が生き残るための方策を一緒に考えていきたいと思います。
- 私たちにできることは
でんきの市場価格は、1日のうちでも時間によって変化しています。
日本卸電力取引所(JEPX)のウェブサイト上で、毎日、翌日の価格が表示されています。(毎日10時に更新)これを見ると、朝と夕方に価格が上がり、夜間や昼間(10時から16時前ごろ)には、少し価格が落ちついています。1月下旬には、夜や昼間の価格さえも上がっていることが大きな問題です・・!
再エネ新電力を利用の方は、単価が一定のプランの場合、高騰している時間に多くの電気が使われれば、電力会社の負担が大きくなります。そのため、例えばこんな方法で、可能な範囲で、電気の使用時間をシフトしてみましょう。
・無理のない範囲で節電を。
・電気を使う家事などは、比較的価格の落ち着く10-16時頃に。
・エアコンのスイッチオンは、朝は7時前、夕方は16時より前に。
(起動時の電力消費が大きいため)
・電力市場の価格状況を見ながら。
(パワーシフトのツイッターでも、状況をお知らせしていきます)
・この記事(再エネ新電力の苦しい状況や応援が必要な状況)をシェア!
・切り替えの手続きを勧めるのは、4月以降がベター。
(でも、決めるのにも時間がかかるので、今から紹介するのは◎)
- パワーシフトで紹介している各社の対応
・グリーンピープルズパワーhttps://www.greenpeople.co.jp/information/6942/
・テラエナジー:2021年より「固定単価プラン」を新設
https://tera-energy.com/plan/
・みんな電力:2021年より市場価格に連動しない「みんなのプラン」新設
https://minden.co.jp/personal/plan
<参考情報>
第1回 卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会(2021年12月28日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/oroshi_jukyu/001.html
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/index.html
2021年度冬季に向けた小売電気事業者向け勉強会(2021年11月9日)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/winter/study_group/
2021年度冬季の電力需給見通しを踏まえた需給ひっ迫・市場価格高騰対策(資源エネルギー庁)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/winter/
2020年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証中間取りまとめ(2021年6月)
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210701007/20210701007-3.pdf
(2022年1月、パワーシフト・キャンペーン運営委員会)