パワーシフト電力会社セミナー・意見交換(第7回) 「今後の非化石価値取引と再エネ販売」

再エネを重視する新電力が相互に課題を共有し、政策課題に対しても連携した働きかけなどを行っていくための勉強会、第7回目は、2021年8月26日(木)に、「今後の非化石価値取引と再エネ販売」をテーマとして開催しました。

2021年11月、非化石価値取引市場が、「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」とに分けられる方向となっています。大口需要家や消費者の再エネ購入を望む声を受けて創設され、トラッキング付きのFIT証書を取引させる「再エネ価値取引市場」は一歩であることは確かです。一方、高度化法義務達成市場は、原子力や大型水力の証書が取引されます。

企業や消費者の再エネ購入が、再エネへのシフトを後押しするような制度にするためには何が必要か、また制度改訂の現状について、三宅さんから話題提供いただいて意見交換しました。電力会社9社、運営メンバー、メディアなど約20名が参加して議論しました。

【1】背景

非化石価値取引市場が、2021年11月より「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」とに分かれる。現状では、高度化法義務達成に再エネ価値取引市場の証書が使えないこととなっているが、詳細については今後検討とのこと。

1)再エネ価値取引市場(FITのみ)
*小売電気事業者に加え、企業も直接買えるように
*JEPXを通じた取引のみ
*トラッキング(産地など明記できる)あり
*収入はFIT賦課金軽減にあてる
*高度化法義務の対象外

2)高度化法義務達成市場 (FIT以外、水力や原子力、廃棄物など)
*小売電気事業者のみ
*JEPXを通じた取引のほか、相対取引も可能
*収入は発電事業者に
*高度化法義務あり

【2】三宅成也さん(みんな電力)からの話題提供

※資料はこちら

<ポイント>

・電力市場には、卸売市場(JEPX)、ベースロード市場、需給調整市場、容量市場、非化石価値取引市場などがあり、それぞれに売り手(発電事業者)と買い手(小売電気事業者)がある。発電事業者は、ほとんどが大手電力(約83%)で寡占状態、小売事業者には新電力もいて競争がある。また、大手電力の多くはまだ発販一体(発電と小売が同じ会社)のままである。大手電力会社が市場支配力を行使しやすい状況。

・「市場の失敗」は、企業の支配力のために最適な資源分配が行われずに生産が過少になる状態、と説明されるが、まさに今年の冬の電力市場価格高騰はそのような状況、寡占による影響だった。また、新規参入がしにくいという状況は、脱炭素に向けても望ましくない。

・非化石価値取引市場で取引されるのは、FIT証書、非FIT(再エネ指定)、非FIT(再エネ指定なし)の3種類。本来、再エネを利用したい需要家がお金を出して証書を購入することで、再エネを増やす、というのが望ましい方向だが、実際にはそのようにはなっていない。

・2020年度の非化石証書の約定額合計228億円のうち、原子力などに54億円、大型水力などに155億円、FIT(再エネ賦課金の軽減)には19億円のみだった。端的に言えば原子力と大型水力への補助金のようになっている。

・FIT証書は大量の売りに対して買いはわずか、原子力証書や大型水力証書は、売りよりも買いが上回っている。価格も、FIT証書は下限価格が1.3円だが、それにあわせるように、原子力証書1円、大型水力証書0.9円と、証書の値段がつり上がり、お金が流れている。

・今回の改訂案は、再エネ価値取引市場と、高度化法義務達成市場に分けるというもの。再エネ価値取引市場は需要家が買いやすくするが、高度化法義務達成には使えない。高度化法義務達成の量は、毎年上がっていくが、売り手が原子力と大型水力しかなければ、市場というよりも、単にお金を流すものになってしまう。当初、3月にはこの方向で提示されたが、今後改めて検討されることになっている。

・高度化法義務達成市場は、上限・下限価格の議論をしても、寡占の市場のなかで、上限価格にはりつくことは容易に想像できる。

・高度化法の非化石価値購入の義務付けは、再エネを増やすためのものにはなっていない。

【2】意見交換

・再エネ価値取引市場で、FIT証書を買いやすくなる、売りやすくなる、というのはいい面でもある。一方で、再エネ価値だけ買ってきて化石電源や市場の電気に貼り付けることもできる。

⇒需要家にとって、すそ野を広げるという意味では、いろんな会社が再エネの電気を売るのはいいことではないか。関心を高めてもらって、その中からさらに選んでもらえばよいのではないか。

・もともとは、大手需要家(企業など)が再エネを調達しやすく、というための制度見直しだった。需要家としては、RE100企業などが想定されており、現状では中小需要家は対象ではない。

・FIT非化石証書のトラッキングについては、電源とあわせて使わないかぎり、「〇〇再エネ発電所からの電気」と表示しながら調達は化石燃料電気、という状況も生じうるため、注意が必要。

・現在の非化石証書取引は、再エネを増やすことにつながらないが、どのような代替案が考えられるか?

⇒証書制度では、電気の流れと切り離されてしまう。それよりも、再エネの電気を直接買って、そこにお金を払うことではないか。発電所は買い手ができて銀行からお金が借りられて、発電所が作れる。今はFIT制度があるが、FITが終わったあとは需要家が買い取ることが必要。出資型のコミュニティソーラーも一つの方法だが、電気を買うことで再エネを増やすことに貢献できるしくみも、今後できるとよい。

(2021年9月 パワーシフト・キャンペーン運営委員会)  

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これまでの報告

第1回 5/26 「エネルギー供給強靭化法案」
https://power-shift.org/200526_seminar-report/

第2回 6/25 「再エネ新電力の危機―電力新市場」https://power-shift.org/200625_seminar-report/

第3回 8/20 「再エネ電力の販売方法」
https://power-shift.org/200820_seminar-report/

第4回 10/1 「地域新電力の現状とこれから」
https://power-shift.org/201001_seminar-report/

第5回 11/11 「託送料金問題と訴訟の取り組み」
https://power-shift.org/201111_seminar-report/

第6回 6/23 「再エネ規制改革タスクフォースとの意見交換」
https://power-shift.org/210623_seminar-report/

以上