電力市場価格高騰~マンションの事例~

最近、さまざまなものが値上がりしており、みなさんの家計への影響も大きいのではないでしょうか。

燃料が値上がりしているなどの影響で電気代も値上がりしていますが、それ以上に深刻なのが再エネ新電力に大きな負担となっている電力市場価格の高騰です。多くは電気料金に反映できず、高騰が続いている現在も、新電力の負担は続いています。新電力の新規受付停止はもちろん撤退や廃業も増えています。

これをそのままにすればどのような未来になってしまうのでしょうか。

〇電気代はどれくらい値上げされているのか?

パワーシフト・キャンペーンのスタッフの家の電気代は6月は約5,500円で、同じ電力量で考えると1年前は約4,400円でした。1,100円値上げされ1.3倍になっています。冬や夏には金額的な負担はさらに大きくなります。他の支出を減らしやりくりしていますが家計は厳しい状態です。

値上げの原因は、電気代内訳のうち燃料調整額が上がっているためです。

スタッフの電気代(2022年6月使用分)
(1年前の燃料費調整額はマイナスでした)

燃料調整制度は、石油、石炭、LNGガスの貿易情報によって燃料調整費単価が算出されており、1年前はマイナス3.06円/kWh、今年の6月はプラス4.15円/kWhとなり、7.2円/kWh高くなりました。スタッフの家の電気代の値上げはこの燃料調整額の値上げ額と同じでした。その他、基本料金や単価は変わっていません。

また、同じスタッフが住むマンションの共用部も別の再エネ新電力と高圧契約しており、1年前と比べ、同じ電力量で計算すると電気代は約1.5倍になっています。こちらの電力会社は、燃料調整費制度とは別の調整額を使っているため、燃料調整制度で計算した値上げ割合(約1.3倍)より若干高くなっています。

このように電気代の値上げは、市場連動性の料金プランでなければ1.3~1.5倍程度になっており、生活者にとっては厳しい状況です。しかし次項でお話するように電気の仕入れ値はさらに大きくなっています。値上げに反映されていない部分があり、生活者にはほとんど知られていません。

〇電気代に反映されていないものがある

燃料費調整額は独自の計算式も含めて多くの電力会社が採用しています。これにより世界的な天然ガスの値上がりなどを、電気代に反映させることができます。

一方、2021年秋から2022年にかけて電力市場価格の高騰が続いています(詳細)。電力市場価格高騰分はあまりにも額や変動が大きく、電気料金には直接は反映されていない場合がほとんどです。多くの再エネ新電力は、燃料費調整額による値上げ分を超える多額の出費をほとんど回収できていません。(市場価格連動型料金プランで回収したり数か月で回収するプランの会社もあります)

再エネ新電力の仕入れ電気の内訳を見ると、電力市場からの調達やFIT電気(再エネ由来)が大きな割合を占める場合が多くなっています。この2つの部分が、昨年秋から現在まで継続している電力市場価格高騰の価格で新電力に請求されています。

再エネ新電力の電源調達割合の例

自由化後の2016年度から2020年度の市場価格の平均は、10円未満/kWh程度でした。2022年1-6月の市場価格の平均は17円~27円で、3倍に近い仕入れ値になっています。

2021年6月以降のJEPX月別平均価格

つまり、円グラフの調達する電源のうち、電力市場およびFIT電気は前年より約3倍払わないと仕入れることができなくなっています。

電力会社の販売価格と原価イメージ

家庭向け電気料金単価が25~30円/kWhなので、電源調達費のほとんどを占め、託送料金や管理費を入れると赤字になってしまいます。また夕方の市場価格は30~50円/kWhと高く、厳しい赤字になっています。

さらにマンションの共用部や企業向けなどの高圧電気の場合、単価は15~20円/kWhと安くかつ電力量が大きいので、新電力の経営を圧迫させます。

つまり、電気の仕入れ値のうち市場価格高騰分とそれに伴うFIT電気の高騰分は、市場連動料金でなければ請求がされておらず、多くの電力会社は短期回収ができていないか、もしくは自らが負担しています。

スタッフのマンションの管理組合でも、共用部の電気代の値上げ通知が来ました。今後さらに値上がりすれば、予算が足りなくなる恐れがあるとして、管理費の値上げにも話が及んでいます。天然ガスなどの燃料費値上げだけであれば、それだけでも大変ではあるものの、予算を増額し住民の理解は得られやすいと思います。しかし、電力市場価格高騰の分は原因がはっきりせず、しかもいつまで続くのかわからないため議論しても結論が出ずに困っています。

電気は、他のサービスや製品と違い、仕入れ値が高いという理由で売るのを止めたり、代替品を売るということはできません。再エネを売りたいという新電力は、歪んだ自由競争の中で、負担を強いられています。まずは市場価格高騰でなにが起きているか、きちんとした情報開示が求められています。

〇未来のエネルギー社会が脅かされている

電気代の値上がりもさることながら、電気の仕入れ値の問題についてはほとんど報道されず、将来の適正なエネルギー社会が脅かされていることを知る人は少ないかもしれません。新電力の撤退や廃業が相次いでいますが、このままでは再エネの普及にブレーキがかかり環境的、倫理的に問題がある石炭火力や原発などの既存電源を温存することになりかねません。

スタッフのマンションの管理組合では、これらの情報を元に相談した結果、原因をはっきりさせず根本的な対策がなされないまま放置されている電力市場高騰問題について、経産省と消費者庁へ対策を求める要請書を提出しました。生活者(消費者)として目先の価格だけを見るのではなく将来を見据えた視点でも意見を言えたらと思います。

神奈川のマンションから出された対策要請書

〇省エネと再エネの推進で未来のエネルギーを!

市場価格高騰問題は、需給ひっ迫時でなくても発生しており制度的な問題をはらんでいます。この問題の根本的な対策なくしては問題の本質を見誤り、公正なエネルギー社会の実現は難しくなります。

制度問題への対策を実施し、建物の断熱などの省エネ/効率化を進めることで需要を大幅に減らし、再エネへシフトしていく必要があります。

需給ひっ迫のたびに耳にすることが多い「原発再稼働」ですが、それは解決策でも選択肢でもありません。

電力自由化から6年が経ちましたが、市場価格高騰問題により、再エネ新電力がピンチ!の状態です。契約の受付停止を余儀なくされたり、撤退するなどが今後相次げば、私たちが再エネを選べないという異常事態も懸念されます。

これに対処すべく引き続き公正なエネルギー社会を求め活動していきたいと思います。

各電源の特徴

現在署名を集めています。ぜひご協力をお願いいたします。

<署名:再エネ新電力が倒産のピンチ!政府は対策を講じてください>
https://chng.it/TzZVbv6zNJ ~9/15に一次締切、その後も呼びかけます。

(2022年7月)