(記事)大手電力と新電力の不公平な関係

電力システム改革と電力新市場について
~竹村英明氏のブログから~

 

東電、関電などの大手電力と新電力の競争は公平なのでしょうか?

現状の電力制度、これから作られようとしている制度について考えてみます。

 

パワーシフト・キャンペーンメンバでもある市民電力連絡会、グリーンピープルズパワー代表の竹村英明氏のブログから抜粋して報告します。

<竹村氏のブログはコチラ>

https://blog.goo.ne.jp/h-take888/e/296d4d881f031d6f20d31a37f9e60ff0

 

1.背景 2016年の電力全面自由化

これまで長く、電気は「電力会社」から供給されるものでした。この「電力会社」とは、発電も送電も小売もすべて1社で行なう会社のことです。しかし三つの業務内容はかなり違っていて、それなら、分離して独立会計とした方が効率も良くなると、はじまったのが「電力システム改革」です。電気ビジネスは発電所や送配電網など巨大な装置産業なので、大きい方が効率的と考えられてきました。しかし技術の進歩は、小規模分散型発電を可能にし、ITを駆使した電力需給管理も可能にしました。発電、送配電、小売を分離して、電力関連コストを明確にし、電力供給システムの無駄を省く方が効率的と考えられるようになってきたのです。

2016年には一般家庭を含む低圧需要家も電力小売会社を選べるようになりました

 

2.電力システムの問題点

 

<送電網の独占と発電所の独占>

 

国内の送配電網は100%大手電力のもの、発電所の約90%も大手電力のものです。既存の発電所の多くは減価償却が終わっています。大手電力の独占が認められていた時代に、総括原価方式によって消費者の全面負担(電気料金)で作られたものです。総括原価方式とは、要した費用に一定の利益率をかけて収入(電気料金)を決定する方式。どんなに巨額でもコスト回収が確実なため、経営努力は必要ありません。

その発電所を、大手電力会社が独占したままで良いのでしょうか。総括原価方式で作られたものは、消費者に利益が還元されるべきで、市場に開放して、どの新電力でも使用できるようにするのが筋ではないでしょうか。

コスト回収の終わった発電所は、基本的には運転コストだけで電気を作れます。メンテナンス費用はかかるものの、建設費に比べれば随分安いです。安価な電気を供給できて、電気代を下げ、消費者に貢献することができるものです。ところが、大手電力はこれらの自社発電会社の発電所を自社小売会社の安売りに活用し、他の新電力への対抗手段にしているのです。これは公正と言えるのでしょうか。

<再エネの送電線への接続拒否>

 

送配電網の運用ルールは大手電力が一手に決めていて、詳細情報を持たぬ新電力や消費者はその是非の判断すら困難です。結果、一方的に再エネは送電線に接続させないというルールすら作られました。2015年に出現した「接続可能量」という考え方で、送電網に再生可能エネルギーの電気を走らせる余力はないと言い出しました。実態は、停止中原発や古い火力発電の通行権を優先し、ほとんど使ってないのに満杯だと主張していました

運用は見直すことになったのですが、詐欺まがいを前提にした「電源接続案件募集プロセス」は今も継続しています。こちらは送配電網の増強工事の費用を再エネに押し付ける制度です。例えば工事費400億円と見積もられたら、40社で分担すると1社平均10億円になります。400社の分担でも1億円です

 

<電気の需給調整とインバランス料金>

 

日本では30分単位で需要と供給をバランスさせていますが、これを需給調整といい30分後を予測して電力供給を増やしたり減らしたりすることは、発電所の9割を所有している大手電力が、ちょっと対応すればできることなのです。ところが全新電力各社にも、自社内での需給調整が個別に義務付けられています。今はどんな小さな新電力も、毎日、需給計画を電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」という。)に提出し、自分で需給調整して計画通りに供給しなければなりません。できなかったら、送配電会社が過不足を調整するのですが、その過不足をインバランスと呼び、新電力には罰金的なインバランス料金が請求されるのです

 

<ベースロード電源市場>

 

変動しない半分程度の需要は安定需要とされます。365日、24時間、常に電気が使われる部分で、これをベースロードと呼びます。ベースロード電源などなくても、いろいろな発電方法を組み合わせて需給調整ができます。精度の高い気象予測と合わせて再エネもしっかり組み込めます。世界の趨勢はそうなっている。

政府は大手電力所有の「原発と石炭火力と大型水力」の一部を切り出して、ブレンドして「ベースロード電源市場」としたのです。見方を変えれば、「原発と石炭の温存策」となりました。

 

<容量市場>

 

「容量市場」は、発電所を作れば、それが運転していなくてもkWに対してお金を払うというしくみです。原発や石炭火力など、廃止すべき老朽発電所に、この「容量価値相当額」がばらまかれ、生き残ってしまう可能性が高いのです。一方で、市場創設の目的である新設発電所は、はじき出されて落札漏れとなる危険性が高い仕組みです。落札漏れへの懸念から建設意欲が失われる可能性もあり、そうなれば、政府の公表している意図とは真逆の結果となります

 

<非化石価値取引市場>

 

先進各国は軒並み2030年に再生可能エネルギー(以下「再エネ」)比率50%という目標を掲げていますが、日本は再エネ比率ではなく「非化石比率」44%という独自指標で欧米並み達成を目指しています。。「非化石」にはいうまでもなく原発が含まれています。2030年に原発22%、再エネ22%が政府のターゲットです。原発が再稼働しなければ、新電力は非化石比率が達成できないという構図です。

非化石価値とは「CO2削減価値」と言う事もできます。その価値を「非化石証書」という証明書にして、実電気とは別に売買するわけです。非化石比率44%を義務付けられているのは新電力なので、買い手はもっぱら新電力となります。

現状でいえば、「CO2削減価値」を持つ原発や大型ダム水力、地熱などの発電所はほぼ全て大手電力グループが保有もしくは契約をしています。全国のメガソーラーや風力ファームも自治体の公営水力なども、大部分は大手電力グループに売電しています。新電力の大部分は、これら発電所との購入契約はなく、44%の非化石比率をクリアするには、結局、大手電力から証書を買うほかないのです。

今後も再エネの普及が邪魔され、原発も再稼働が進まないと、「非化石証書」は不足し高騰することになると考えられます。非化石価値が高騰すれば、それは結果的に原発に追加利益をもたらすことになり、再稼働を助けることになるでしょう

 

3.2030年エネルギーミックスは再エネを妨害

 

2018年に策定された「エネルギー基本計画」の大前提が、2015年策定の「エネルギー長期需給見通し」であり、通称「エネルギーミックス」と呼ばれているものです。2030年までに再エネ22〜24%は、それまでと比較すると大きいように見えますが、先進各国に比べると半分です。再エネ比率の内訳は、水力が9%前後。今でも7%ですから、巨大ダムがそのままとすれば、小水力発電が少し増える程度でしょうか。太陽光の7%は7000万kWh程度に相当し、これは現在「設備認定」されている太陽光発電でほぼまかなわれます。つまり2020年から2030年まで増えないということです。

風力発電は1.7%と極端に少ないです。風力の潜在能力は、右の図のように4兆kWhに迫るほど。日本の需要の4倍を風力だけで賄えるのですが、政府は全く使う気がないのです。原発を20%以上、地球温暖化の元凶の石炭火力を26%としています

 

4.どうすれば、この危機を回避できるのか

1)減価償却を終えた発電所の市場投入義務化
2)送配電網への再エネの優先的接続
3)ベースロード電源市場、容量市場、非化石原発証書の廃止
4)独立分散型送配電システム

(詳細はブログをご覧いただければと思います)
https://blog.goo.ne.jp/h-take888/e/296d4d881f031d6f20d31a37f9e60ff0

さらに知りたい方は、下記学習会を開催します。
10/29(火)GPP学習会「電力自由化と電力新市場」
  @表参道 地球環境パートナーシップ(GEOC)
https://gpp-event.blogspot.com/2019/05/gpp-study1029.html

 

(2019年10月 竹村英明)

 

このような制度等では既存の大手電力と新電力は公平な活動ができるのか疑問です。

再エネや地域の電力が良いと思っていても、なぜか進まない、それには理由がありました。

まずは公平な電力制度を実現し、需要家、市民が望む電源を拡げる必要があります。

(2019年10月パワーシフト・キャンペーン)